堀越高校提供/本田好伸
超高校級の「キャンセル」と「ケンケン」(3年・森奏)|N14中西メソッド×堀越高校の化学反応
Writer / 田中達郎
Editor / 本田好伸
堀越高校の3年、森奏は攻撃と守備をハイレベルでこなす「DFW」(DF・FW)として、2023年度の全国高校サッカー選手権大会におけるベスト4躍進に大きく貢献した。初戦で見せたゴール前での「シュートキャンセル」と、大会中に習得した「クロス&シュート対応のケンケン」が彼の武器である。そのプレーを授けた人物こそ中西哲生であり、森にとってこの出会いは、大きな転機となった。
(第3回/全4回)
中西さんの指導がなければベスト4はなかった
「なにこれ?本当に今後につながるの?」
2023年7月の当時、堀越高校2年の森奏が初めて中西哲生の指導を受けた際に、そう感じたという。オブラートに包まない言葉は、純粋無垢な森らしい感想だ。
あまりにも特殊な練習に、戸惑うのも無理はないだろう。「今までやったことのない練習ばかりでした。でも、教わったことを継続したことでチームも個人も成果が出て、自然と最初の疑問が解消されました」と、N14中西メソッドの価値をすぐに知ることになった。
「“中西パスコン”(パス&コントロール)を継続したことでチームも個人も成果が出ましたが、誰かに言われるまでは身についている実感はありませんでした。ある時、監督が編集してくれた試合映像で、良い例として自分のプレーを挙げてもらったんです。トラップから軸足を抜いて縦パスを入れたシーンでした。中西さんが練習に来てくれてから、1〜2カ月ほど経過したくらいのことです」
映像で客観視することで、自身の明らかな変化に気がついた。さらに選手間でも「軸足が抜けてない」など、練習からメソッド特有のワードが飛び交うようになり、チーム全体に浸透していった。たしかに取材を訪れた際にも、選手たちがしきりに「キャンセルできたよ今の!」「軸足抜けてなかったよな」と口々に話していたのだ。
森は、守備でも攻撃でも、メソッドの真髄を享受した。
全国高校サッカー選手権大会の1回戦は今治東高校に、2回戦は初芝橋本高校にPK戦の末に勝利し、チームは“年越し”に成功した。しかし、1月2日の3回戦、明桜高校との試合を前に、森は課題を感じていた。守備で「左足が出ない」ことだ。
「選手権の期間中、利き足ではない左足が出ないシーンがあり、課題を自覚していました。それで、1月1日に練習に来てもらった際に足の出し方を指導してもらったんです『右は出るから、左足を意識しろ』と言われ、それ以降はうまく出せたと思います」
N14中西メソッドにおいて重要なのは「無意識にそのプレーができること」だ。目の前に相手がいない状態でできるようになり、今度は相手がいる状態でできるようになり、そして、よりハイレベルな試合の最中に、意識しなくてもできる“型”にすること。
その点、森は「右」は無意識に反応できる一方で、「左」は出てこない。つまり、右のことは考えずに「左」に集中することで、応急処置的に“苦手な左”を克服したのだ。
もともとはFWだった森が、身体能力の高さを買われてCBでの出場が増えていたなかで、右にも左にも対応できることは、死活問題だろう。森は大会中に大きな進化を遂げた。
無意識に「キャンセル」して決めた先制弾
守備面ではもう一つ、大きな武器を身につけた。「クロス&シュート対応のケンケン」だ。
「クロスやシュート対応は、普通は足を出すだけですけど、ケンケンで相手についていくことによって体に当たる。動きながら足を出せるので、体にボールが当たりやすいですね」
堀越高校が3回戦、準々決勝の佐賀東と勝ち上がる過程で、何度かそのシーンを目撃した。サイドからクロスを上げようとする相手にケンケンで対応してついていく、あるいは足を出してブロックした場面は、小さいようで、非常に価値の大きなプレーだった。
「試合で実感できたことで、教えてもらったことは間違ってなかったと思いましたし、それがなければベスト4という結果はついてこなかったと思います」
森がそう話した言葉には、実感が込められていた。
先述したように、森はFW出身であり、その点でも際立った。1回戦、今治東高校戦で森は、後半に先制点をマークした。そのゴールはまさしく練習の賜物だった。
ゴール前に入り込んだ森は、味方が競り合ってこぼれたボールをエリア内やや左で拾うと、シュートにいく動作をやめて対峙する相手をはがすと、右に流れながら右足を振り抜き、DFとGKの間を通す鋭いシュートをゴール左隅へと突き刺したのだ。
「あのゴールは頭の中で『キャンセル』が選択肢にあったというよりは、何カ月も意識して練習してきたので体に染み付いて思考が変わり、無意識にキャンセルできていました。中西さんに教わる前だったら、そのままシュートを打っていたと思います」
当時の主将・中村健太の記事で触れたように、堀越高校はN14中西メソッドを受け入れ、自分たちの血肉とできる下地が整っていた。新しいものを受け入れる姿勢と器が、チームと個人の飛躍につながったことは間違いない。そのことを森も感じていた。
「自分たちで考えることには限界がある。監督やコーチ、そして中西さんに新しいアイデアをもらい、採り入れて自分たちの限界を超える。それは目標達成のために絶対に必要なことだと思っています」
中西と出会った当時、「なにこれ?本当に今後につながるの?」と感じた森は、自分の限界を超えた成功体験を積み重ねながら、輝きを増していった。
「今日はコンディション調整で、自主練は控えます」
取材に訪れたその日、全体とは別メニューで調整していた森だったが、中西から学べる機会の価値と意味と、なにより好奇心と成長意欲に勝てなかったのだろう。
気がつけば全体練習後、2時間みっちりと中西の指導を受ける姿があった。
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