安藤隆人
中学はCB→高校でストライカーとして覚醒(永井望夢/東邦高校・2年)|安藤隆人の“直送便”
Writer / 安藤隆人
Editor / 本田好伸
高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。高校編の今回は、愛知県・東邦高校に焦点を当てる。ゴールを決めることは、サッカーにおいて最も重要かつ難易度の高い仕事だ。中学生まで守備的な選手だった永井望夢は、高校入学を機にFWに転身し、今まさに点取り屋として覚醒し始めている。眠っていたストライカーの本能はなぜ、目覚めたのか?
守備職人からストライカーに転身
愛知県に注目の2年生ストライカーがいる。東邦高校のFW永井望夢だ。2023年に1年生ながら愛知県U-18リーグ1部で12ゴールをたたき出して得点ランキング2位に輝き、2024年は同リーグ第7節終了時点で6ゴールを決めている。
永井のすごさとはなにか。身長は175cmと大柄ではないものの、身体能力とポジショニングセンスがあり、的確な動きでポストプレーと背後への抜け出しを巧みに使い分け、空間把握能力とミート力を駆使してクロスに飛び込み、質の高いシュートでゴールを狙う。
取材に行った県リーグ第5節の中京大中京戦でも、持ち前のポジショニングセンスとシュートセンスを発揮していた。
2トップを組む3年生FW廣江優とのコンビネーションは抜群だった。永井が最前線に張り出したら背負ってボールを受けたり、隙間から裏を狙ったりするプレーで相手の最終ラインを押し下げる。逆に廣江が前に出たら、永井は低い位置まで落ちてボールを引き出してはサイドに展開したり、ターンから前を向いて運んだりと状況に応じたプレーを見せた。1-0で迎えた63分には、斜めのランニングでゴール前のスペースに入り込みながら、左サイドを突破したDF名古屋佑乃介のクロスに合わせ、強烈なヘディングシュートを左隅に突き刺した。
「2023年も名古屋選手からのクロスに飛び込む形のゴールが多かったので、意思疎通はできていました。状況的に山なりのボールが来ると思い、タイミングを図って飛び込みました。毎試合ゴールにはこだわっているので、常にどこにいけば点が取れるか狙っています」
点を取ることにとことん執着している。だが、驚きなのは、永井が根っからのストライカーではないことだ。高校入学まではボランチとCBを主戦場としていた。
「CBの時は対人プレーを得意として相手とバチバチやり合っていましたし、ボランチの時は奪ってから前に運んで攻撃に絡むことを意識していました」
ファイターであること、前へのベクトルを向けている選手であることは変わりなかったが、自分がFWでプレーするとは思ってもみなかったと言う。
中学時代に東邦高校サッカー部の道家歩ゼネラルマネージャー(GM)からオファーを受けた際に、「FWをやってみたらおもしろいと思う」と言われていた。FWとして評価してもらっていることには、「うれしかったのですが、不思議でもありました」と戸惑いもあった。だが、道家GMの後押しもあり、中学3年生の時に愛知県選抜でFWに起用されると、違和感なくプレーするどころか、自分を思い切り表現できることに気づいた。
「やってみたら『意外とできるんじゃないか』と思いましたし、強気というか、常に前を狙っていた自分の性格とプレースタイルが合致していました。それに、ゴールを決める喜びは本当に何物にも変えられないものだと気がつきました」
眠っていたストライカーとしての本能が目覚めた気がした。
「高校ではFWで勝負したい」。永井は道家GMのいる東邦高校に進学すると、前述した通り1年時からエースストライカーに抜擢され、覚醒したかのようにゴール量産態勢に入った。
朴勢己と原康介から刺激を受けて
「道家さんにはFWとして前線でボールをキープすること、時間をつくることを教えてもらいました。自分が(パスを)受けて前線に上がってきた選手を使ったり、ターンして前を向いてシュートまでもっていったり、これからもやれることを増やしていくことで、より上のステージでも点を取れる選手になりたい」
そう語る永井の目標は「高卒プロになること」だ。2023年、その思いに一気に火を点けた2つの出来事があった。
一つは、2学年上の先輩であるDF朴勢己がJ1・ジュビロ磐田に加入内定したことだった。朴はCBを務めていたが、状況に応じてボランチ、トップ下、FWと、GK以外のどのポジションもこなせるマルチロールだ。与えられたポジションできっちりと任務を遂行するインテリジェンスをもち、184cmのサイズと屈強なフィジカルを武器に対人では無類の強さを見せてきた選手だ。
「朴さんはキープして時間をつくるプレーが本当にうまくて、特に腕の力がめちゃくちゃ強い。そこを鍛える筋トレメニューを教えてもらったり、プロの世界にいってからもいろんな話をしてもらったり、本当に刺激と学びばかりです」
もう一つは、県リーグで熾烈な得点王争いを繰り広げた名古屋高校のFW原康介(北海道コンサドーレ札幌)の存在だ。「ゴールを量産している姿に刺激を受けたし、絶対に負けたくなかった」と、相手が3年生だろうが関係なくバチバチのライバル心をみせ、永井のなかにある貪欲にゴールへ向かう姿勢をさらに引き出した。
結果的に永井に2点差をつけて得点王となった原は、選手権で初出場ながらベスト8に進出した名古屋高校躍進の立役者となり、2024年1月末に札幌への加入が内定した。そして、プロデビューだけでなく、プロ初ゴールを決める活躍を見せている。
「原選手を見て『自分もやれるんじゃないか』と思いました。だからこそ、もっと得点パターンを増やしたり、全国区の選手より劣っていると感じたフィジカルの強化とボールを扱う技術の向上を意識したりして、自分があの場にいけるようにもっと努力と工夫をしていきたい。しっかりと積み重ねて、2024年こそは(県リーグ1部で)得点王を獲って、インターハイでも選手権でも点を決めてアピールしてプロにいきたい」
朴や原を追いかけるのではなく、追い越していくために。眠っていた“根っからのストライカー”の本能が目覚めたゴールへの渇望は、高まるばかりだ。
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