唯一無二の“スプリント”クラブへ|いわきFCで起こす走りの革命

北原基行、いわきFC

Jリーグ

2024.04.05

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唯一無二の“スプリント”クラブへ|いわきFCで起こす走りの革命

舞野隼大

Writer / 舞野隼大

J2で18位に沈んだ1年目を終えたいわきFCは、10名以上の選手が上位クラブへ“ステップアップ”した。一方で、「ここでなら成長できる」と魅力を感じ、新天地にいわきを選んだ選手も多い。秋本真吾によるトレーニングの成果は、Jの勢力図に影響を与えようとしている。

スプリントコーチ就任から3年目。今季の次なる挑戦とは。

(第3回/全3回)

選手獲得のために交渉の席で“走りのプレゼン”

J2で18位に沈んだいわきFCだが、クラブがこの舞台で示した価値は大きい。J1クラブやJ2上位クラブへ7人も移籍したことが、選手を評価されたなによりの証だ。

いわきでのスプリントトレーニングに魅力を感じた選手も数多くいる。

セレッソ大阪のU-23日本代表候補・西川潤もその一人だ。

西川がいわきへの育成型期限付き移籍を決断する前のミーティングに、クラブの大倉智代表取締役と強化部、監督と共に秋本も同席。そこで西川の走りについてプレゼンをした。

「映像で見た限り、今の走り方だといずれ左足を故障する可能性がある」

そう伝えると、西川は「実は……左足の張りがずっと取れないんです」と明かした。

そうしてC大阪からは西川に加え、全国高校サッカー選手権大会で活躍した大迫塁も育成型期限付き移籍で入団。他にも、クラブや秋本のメソッドに触れたいと考える野心あふれる若手が移籍してきた。

若い選手がいわきでフィジカルやスプリント能力を発達させることに期待しているクラブは多い。預かる側のいわきは若手をしっかりと成長させつつ、チームとしての実力と成績も向上させる。

才能が開花した選手たちと上位に進出すれば、クラブの格は上がる。選手がポテンシャルを示せば、上位クラブに買われていく。するといわきにもまた、ポテンシャルを秘めた選手が集まってくる。息の長いクラブとは、そうやって上の舞台で価値を示していくものだ。

サッカーに接続させるフィジカル

今シーズンの開幕前、秋本は走りに関する全メニューを一任された。

プレシーズンのフィジカルトレーニングが年間のコンディションを大きく左右することは、明白の事実だ。その内の大きな領域を任されるということは、それだけ秋本がクラブから信頼されているという証拠だった。

午前練習に大きなパワー発揮が必要になるストレングスのメニューを行い、疲労を溜めた状態で午後に走りのメニューを行うという構成で、選手は身体を追い込まれた。

「サッカーは常にフレッシュな状態でプレーできるわけではありません。正しい身体の動かし方、筋肉に刺激や負荷をかけた状態でも効率よく走れることをテーマに、ストレングスで身体の使い方をしっかり習得して、その筋肉を使って走るという順序でトレーニングを組み立てました」

スプリントコーチ就任1年目に「走り方を正すこと」をテーマにした秋本は、3年目の今シーズンから「サッカーに接続させるフィジカル」に着手している。

「身体を大きくする、当たり負けしないことはもちろんのこと、運動生理学の部分です。トレーニング内容はこれまで以上にキツくなっていますけど、選手がそれに耐えきれたら、試合で間違いなく躍動できるようになる。ここからどうなるか。自分でも楽しみですね」

さらに今シーズンは、秋本にとって頼れる存在も加わった。

日本人で初めてメジャーリーガーを指導した友岡和彦だ。いわきは友岡氏とストレングス&コンディショニングコーチの契約を結び、“カラダづくり”のさらなる強化を目指した。

友岡氏は陸上選手が瞬発的に力を発揮するためのトレーニングも考案した人物であり、「友岡さんのメソッドも加わって、いわきはもっとおもしろくなる」と秋本も高揚した。

今シーズンの第3節の鹿児島ユナイテッド戦では最後まで高い強度で走り続け、3-1で今シーズン初白星を獲得した。

J2ではここから、カップ戦を含めた5連戦が始まった。中3日ないしは中2日で敵地への移動も発生する。通常ならコンディションを回復させることがやっとな状況だが、いわきは違った──。

鹿児島戦から中3日で行われたFC大阪とのルヴァンカップ1回戦で2-0の勝利を収めると、中3日のロアッソ熊本戦は6-0と大勝。そして中2日で当時暫定2位にいたヴァンフォーレ甲府戦では、追いつくかたちで1-1のドローに。3試合はいずれもアウェイゲームだったが、タフな戦いぶりを見せた。5連戦の締めくくりとして行われたホームのモンテディオ山形戦はスコアレスドローと、過密日程で行われた試合を一つも落とすことはなかった。

驚くべきことは、この5連戦での高強度のランニング数値が昨シーズンより平均で124%上回ったこと。山形戦に限って言えば、140%も上回っていたという。

連戦で次戦までの間隔が短く、移動も挟みながら状況下で、だ。

なぜ、いわきの選手だけはこれほど走れたのか。それは先述したように、プレシーズンで身体を相当追い込まれたことが大きな理由だ。

「スプリントトレーニングより試合の方がはるかに楽です」

選手からそんな声も挙がるほどフィジカルの限界値が上げられ、試合中も高強度で走り続けることができた。こうしたトレーニングの積み上げがあるため、「いわきの選手は今年の夏も継続して走れますよ」と秋本は言う。

「このクラブの体制や方針が好きなんです。だから、唯一無二にしたい」

JFLやJ3で走力によって文字通り“無双”してきたいわきは、J2で2年目を迎えた今シーズン、どんな結果を手にするのか。秋本が始めた「スプリント」からサッカーを見つめ直す「走りの革命」がJリーグをもっと席巻する日は遠くないかもしれない。

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