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「街クラブでもやれるところを見せたい」60分の1を務めるDJとしての覚悟と野望|湘南スタジアムナビゲーター・三村ロンドの軌跡
Writer / 青木ひかる
Interviewer / 福田悠
ラジオDJ、俳優、ナレーターと紆余曲折したキャリアを経て、『スタジアムナビゲーター』という天職に出会った三村ロンド。
自らのキャラクターを最大限生かし、試行錯誤しながら“湘南ベルマーレのロンドさん”の地位を確立してきた。
J2降格、J1昇格、そしてルヴァンカップでの初優勝──。
どんな時もクラブへの愛を叫び続ける三村が、ベルマーレで叶えたい野望とは。
(第3回/全3回)
初めて来場した人も『楽しい』と思ってもらえる場所に
湘南ベルマーレのスタジアムナビゲーターのアシスタントを務め、11年の年月をかけ、三村は念願のメイン担当の座をつかんだ。
あくまで主役は、選手やスタッフ、そしてサポーター。自分は場を盛り上げる脇役という大前提がありながらも、「なりたくても、簡単にはなれない」ポジションだとわかっているからこそ、責任感をもって仕事に注力してきた。
一方、顔を出して前に出る機会が増えるほど、各方面からのいろんな声が耳に入る。特にチームの結果が芳しくない時は、フラストレーションの矛先が三村に来ることもしばしば。それでも、自分も本気でベルマーレに向き合い、ゴール裏に混ざって応援してきたからこそ、理解できる部分もあると三村は言う。
「特に難しいのは、『コア層とライト層、どちらに合わせるのか』ということ。これはどのクラブやスポーツでも起きる論争ですよね。落としどころをどこにするのかについては、DJ仲間ともよく話をするテーマです」
たとえば応援の煽り方ひとつをとっても、「ぜひ、手拍子だけでも」と声を掛けるのか、「声を出して、飛び跳ねましょう」と促すのかでは大きく異なる。どのタイミングで、どんなテンションで、呼びかけるのか。自分の一言で、試合中の雰囲気がガラリと変わることもある。
「もちろん勝ったらうれしいし、負けたら悔しいという気持ちも大切。だけど、初めて来場した人にも『サッカー観戦って楽しいな』と思ってほしい。それは試合の内容だけでなく、フードパークのご飯でも、演出でも、選手紹介でもいい。スタンスとしては、ややライト寄りなのかなと思います。そこに対していろんな意見があるのもわかりますが、まずは見に来てくれる人を一人でも増やすことに注力したいというのが、僕の思いです」
どんなきっかけでもいい。観戦しにきてくれた人たちが、気軽に足を運びやすい場所であるために。三村は、様々な思いに寄り添いながら、より良いホームゲームの雰囲気づくりを日々模索している。
この声で、J1制覇の瞬間を伝えたい
2014シーズンのメインナビゲーター就任から、今年で丸10年。
苦楽を乗り越えながら歴史を紡いできたベルマーレに関わる一員として、三村には叶えたい夢がある。
「いつになるかはわかりませんが、新スタジアムの構想もあるので、ACLの出場権を獲って海外クラブを迎えた試合を経験してみたいな、というのが一つ。あと、この仕事をしている以上は、やはりリーグタイトルが懸かった試合をして、この声で湘南ベルマーレのJ1制覇を伝えたいというのは、ずっと持ち続けています」
その思いがより強まったのは、クラブ史上初の国内3大タイトル獲得を成し遂げた、2018年10月27日。会場の埼玉スタジアム2002の熱量は、今でも忘れられないと振り返る。
「ルヴァンカップ決勝では両チームのスタジアムDJが選手紹介をするのが習わしになっているんですが、僕が名前をコールしたあとのゴール裏の圧と声量、熱気は本当にすごかった。ああいう瞬間を一つでも増やしたいし、小さな街クラブでもやれるんだ、というところを証明したい」
J1昇格から7年目を迎える今シーズンも簡単な試合はひとつもなく、地道に勝ち点を積み上げ、まずはJ1残留を達成しなければならない。それでも三村が見据えるのは、その先の未来だ。
「結果がなかなか出ず、傍から見たら『バカだな』と思われることもあるかもしれない。でも、いつか実を結ぶ日が来ることを信じて、ブレずに前向きにやり続けたい。Jリーグクラブは全部で60チーム。つまり、実質60人しかスタジアムDJにはなれない。その限られた枠を僕に任せてくれているという自覚を持って、この先も自分ができることに全力で取り組んでいきたいです」
自身の声の力を信じ、三村ロンドはこれからも、湘南ベルマーレとともに歩み続ける。
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