【社内で横浜F・マリノスのアウェイ観戦会→サポーターが就職試験に】株式会社マネーフォワードが選んだ協賛のあり方

難波拓未/株式会社マネーフォワード

Jリーグ

2024.08.10

  • X
  • Facebook
  • LINE

【社内で横浜F・マリノスのアウェイ観戦会→サポーターが就職試験に】株式会社マネーフォワードが選んだ協賛のあり方

難波拓未

Writer / 難波拓未

Interviewer / 難波拓未

Editor / 北健一郎

スポンサー企業がサポーターを巻き込んで、応援の熱を高める──。金融系ウェブサービスを扱う「株式会社マネーフォワード」は2020年に横浜F・マリノス、北海道コンサドーレ札幌、アビスパ福岡とパートナーシップ契約を結ぶと、いわゆる従来型の「スポンサー」だけでなく、クラブと共に企画を考え、実行し、新しい価値を生み出す「共創」を続けてきた。結果、企業文化に触れたサポーターが「ここで働きたい」と就職試験を受けに来るほど、その取り組みが認知されている。マネーフォワードが突出しているのは、熱量にある。Jクラブとの「全力応援型パートナーシップ」とも表現できそうなその共創関係はいかにして生まれ、築かれてきたのか。Corporate Identity 推進室 Sports Strategy グループのリーダー・石戸健氏に話を聞いた。

苦しむスポーツクラブを前へ

──まずは株式会社マネーフォワードについて教えてください。

2012年5月に設立して「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションを掲げ、法人や個人など“すべての人のお金の課題解消”を目指したサービスを提供しています。法人向けには、『マネーフォワード クラウド』という経理や人事労務における面倒な作業を効率化する事業者向けバックオフィスSaaS(サース/サービス提供事業者(サーバー)側で稼働しているソフトウェアを、インターネットなどのネットワークを経由して、ユーザーが利用できるサービス)を、個人向けには、『マネーフォワード ME』という家計の流れや資産の現状を見える化する家計簿アプリをメインに展開しています。

──2020年10月に横浜F・マリノスのパートナー企業になり、翌月に北海道コンサドーレ札幌、アビスパ福岡ともパートナーシップを結びました。お金関係の会社が、なぜサッカークラブを支援しようと思ったのでしょうか?

2020年はコロナ禍の初年度だったので、スポーツ業界はどこも入場数が減って収益に苦しんでいました。そんななかスポーツ業界の力になりたいという話が社内で出て、最初にスポーツクラブとそのスポンサーになりたい企業をマッチングするイベントを開催しました。そのプロジェクトに関わっていくなかで、自分たちもスポンサーシップに興味をもち始めたことが発端です。

このプロジェクトも「社会を前へ推し進めたい」という私たちのミッションに紐づくアクションでした。当時は、社会情勢的にオリンピックが延期になったり、サッカーの試合が無観客になっていた時期です。人々を熱狂させ感情を動かせるという、唯一無二の強みがあるスポーツを盛り上げることで、日本中の元気を取り戻したい、そんな想いがありました。

──スポンサードすることで、事業的なメリットも期待していた?

もちろん、それもありました。CMを打ったりプロモーション活動はしていましたが、家計簿アプリ『マネーフォワード ME』や企業向けクラウドサービスなど弊社が扱う事業は、世の中に新しいものを提供するというものなので、プロダクトを届けきれていないと感じていました。「すべての人の、『お金のプラットフォーム』 になる。」というビジョンを掲げており、これを叶えるためにスポーツに関わる人に弊社のことを知ってもらいたいという想いはありましたね。

ほぼ同時に3クラブのスポンサーに

──社内での調整はスムーズに進んだのでしょうか?

当時は無観客や観客数の制限があったので、純粋なPR効果の低下などメリットを享受できるかどうかの議論はあったのですが、社長の辻庸介や前述のスポンサーマッチングプロジェクトを主導したCFOの金坂直哉が「社会のためにやるべき」という方向性を強く打ち出してスピード感がアップし、1、2カ月で横浜F・マリノスとのパートナーシップ契約が決まりました。

──横浜FM、札幌、福岡という3つのクラブと、ほぼ同時にパートナーシップを結ぶのはレアケースだと思います。

一つの会社が複数のクラブ、それも同じJ1リーグを戦うライバル関係にあるクラブのスポンサーをしていることは珍しいと思いますが、マネーフォワードとしてはサッカークラブを応援していて、各拠点でもそれぞれの近隣クラブを応援しています。

我々のようなITやベンチャー企業は既存のものをアップデートしていく意識が強く、「一つの会社が複数クラブのスポンサーになるのはいかがなものか」という既成概念に捉われません。一つのクラブだけを応援することも素晴らしいですが、複数クラブを応援してサッカー界全体が盛り上がったり、新しい支援の仕方を提案できればいいなという思いをもって取り組んでいます。

主体性×共創でサポーターと熱狂を起こす

──マネーフォワードさんがサポーターを巻き込んで行った取り組みを教えてください。

横浜F・マリノスを例に出すと、弊社のオフィスにマリノスサポーターを招待してアウェイ戦を一緒に観戦する「マネフォオフィス観戦会」、サポーターに新加入選手へのメッセージを募ってトリコロールの1枚の色紙にしたものを選手にプレゼントする企画を行ってきました。

──パートナー企業が主体的にサポーターとムーブメントを創る活動は、どんな想いで行っていますか?

私たちが取り組む活動には「主体性」と「共創」の二軸があります。ただスポンサー費用をお支払いし、ロゴを掲出して終わりではなく、 弊社としてはサッカークラブを“フル活用”して本気で取り組みたいという想いがあります。

また、担当者の私自身がこれまでスポンサーシップについて大学で学び、前職時代にも触れてきて、企業側だからこそ自分たちがなにをやるべきなのか、企業がもつアセット(資産、経営資源。企業がビジネスを行ううえで保持する、情報やデータベース)や企業文化など、いろいろなものを掛け合わせて世の中にマネーフォワードらしさをアピールしたり、自分たちの掲げた目標に沿って活動したりすることが本当のスポンサーアクティベーションだと考えています。それを体現したいと思い、主体的にどんどん進めてきました。

──「共創」という言葉には、どんな想いが込められているのでしょうか?

弊社としてはいつもと同じ やり方をしているという感覚なんです。 社内には「Let’s make it !(共に創り、実現しよう!)」というスローガンが浸透していて 、みんなでつくることを会社としてすごく大事にしています。 事業ではステークホルダーと一緒に新しいものを導入したり、変化を起こしたりしてきましたし、社内のプロジェクトもやりたい人を募る応募制で運営しており、誰かを巻き込んで一緒に創り上げていくことが多い です。それをスポンサーシップに当てはめると、クラブを取り巻く人々、特にサポーターの方と一緒にイベントや活動に取り組み、みなさんとより深いつながりを構築して一緒に熱狂を起こしていくことを目指しています。

──「サポーターと一緒に」という部分で大事にしていることを教えてください。

“サポーターみなさんの想い”を汲み取ることです。サッカーチームを応援していると、本当に1試合1試合で感情が変わると思います 。パートナー企業として応援しているとは言え、チームやサポーターの文脈と外れたことをやってしまうと受け入れてもらえないし、本当の意味で届かない。サポーターは今どういう気持ちなのか、どんなところを見ているのか。そこを考えながら、どんなメッセージを発信するのか、企画がいいのかなどを常に考えています。

──実際のオフィス観戦会はどんな雰囲気ですか?

7月6日のガンバ大阪戦は負けてしまい残念でしたが、終了後には「1人で見て落ち込むよりも、みんなで見て最後に『次に向けてがんばろう!』と声を掛け合って前向きな気持ちになれた」「誰かと気持ちを共有すると楽になる」といった感想をいただきました。一緒に喜んだり、逆に悔しがったりできる良さがあると感じています。2023シーズンのオフィス観戦会は2連勝だったのですが、その時の盛り上がりは本当にすごかったです。

会社としてはオフィスづくりにも力を入れていて、サポーターの方にオフィスを案内することでマネーフォワードのカルチャーを体感してもらえますし、より結び付きが強くなっていると感じています。

──主体的なスポンサーアクティベーションは、事業面にプラスをもたらしていますか?

サポーターとスポンサー企業という枠組みにおける新しい関係性をつくれている実感はありますね。サポーターへのアンケート調査でも、約95%の方にマネーフォワードのことを知ってもらえていますし、SNSでは私たちの存在を好意的に感じてくださっている意見もいただきます 。アンケート結果からは会社として新しいことにチャレンジしているという空気が伝わっていること、期待感をもってくださっていることを感じています。

『マネーフォワード ME』という家計簿アプリに関しては、クラブポイントと連携しており、そのユーザー数は右肩上がりに伸びています。ユーザー獲得に特化していたわけではありませんが、スポンサーアクティベーションを通してマネーフォワードのことを認知していただき、人生の中でお金と向き合うタイミングがきたら 弊社のサービスを手に取ってもらえる状態にするということができているのかなと感じています。

マリノスサポーターの方が就職試験を受けてくださることも定期的にあるんですよ。私は実際にサポーターやサッカーが好きという方と面接をすることもあるのですが、サッカーをキッカケに会社のカルチャーに共感して「働きたい」と思って入社していただくというのはうれしいですね。

──サッカークラブのスポンサーになったことで、社内の雰囲気には変化がありましたか?

マネーフォワードの冠試合には300人以上の社員が応援に行きますし、サッカーをはじめとしたスポーツをキッカケに社員同士のコミュニケーションが増えました。サッカーやスポーツというくくりで新たなつながりが生まれていますし、仕事では関わることのなかった部署の人と知り合いになるなど、社内のつながりを育むものになっている実感もあります。

冠試合3年連続来場でトリコロール完成

──スポンサー企業側から主体的に盛り上げるためには、どんなことが必要になりますか?

まずは自分たちがなにをやるべきなのか、経営状況を踏まえてなにを目指してやっていくべきなのかをスポンサー企業がしっかりと考えるスタンスは大事だと思います。そして関わっているステークホルダーのクラブ、選手、ファン・サポーターがどんなことを考えているのかを実際の対話で知ったり、積極的にコミュニティに入ってスポンサー企業としての想いを伝えたりすることも大切にしています。

実は冒頭でお話したメッセージ色紙の企画は、最初は別の形で提案したのですが、F・マリノスの担当者さんからは「それは難しい」という回答がありました。それを受けて、できる範囲の中でやりたいことを実現しようと担当者さんとディスカションを重ねて生まれました。

新しいことやパートナー契約の範囲から外れるようなことは実現が難しいという反応をいただくことはありますが、そこには1社を優遇できないなどのクラブ側の事情もありますし、それを理解したうえで別の形を提案する。クラブにリスペクトをもちながら、あきらめずに実現できる落しどころを見つけ出すことは意識的にやっています。

──お金を出してなにかを得ることを重視するのではなく、今後も長期的な視点で共創関係を築いていくイメージですか?

マネーフォワードのブランド価値を高めるものとして活用し続けたいです。スポーツを盛り上げるために活動していくことで、それを見たスポーツ関連の企業が我々の想いに共感して弊社のサービスを利用してくださることもあります。スポンサーアクティベーションを通して「マネーフォワードだから使いたい」「マネーフォワードだから関わりたい」と思ってもらえるようなブランド価値の形成を今後も続けていきたいと思っています。

そのためには「マネフォオフィス観戦会」をはじめ、サポーターのクラブ愛や、サポーターと我々の一体感が増すような活動をどんどん仕掛けていきたいです。

8月11日のヴィッセル神戸戦は「マネーフォワードDAY」です。先着4,000名の方に赤色のオリジナルラバーバンドを配布します。冠試合は今年で3回目なのですが、2022年は白色、2023年は青色なんです。

──ということは、3年連続でゲットすれば……?

そう、3つを一緒に身に着けると、チームカラーのトリコロールになります。なので、ここまで2年連続で来場してくださっている方にはぜひそろえてほしいです。

また、当日の特設ブースでは「マリサポみんなのお金の自由研究」という企画にも参加いただけます。YouTube企画「教えてマネフォ先生」ですでに公開済みなのですが、普段のお金の使い方を「消費」「浪費」「投資」に分けて、未来にワクワクできるお金の使い方=自己投資について考えてみようというものです。

【第4弾】教えて!マネフォ先生「未来にワクワクできるお金の使い方」編| 横浜F・マリノス×マネーフォワード

今シーズン、F・マリノスにはいろいろな出来事がありました。でも 、「だからこそマリノスサポーターが一丸となって応援していこう、それがF・マリノスらしさだ」と、応援の後押しをするようなメッセージ入りのフォトスポットをスタジアム前に設置します。SNSも絡めながら、応援の熱を高める雰囲気を創り上げると気合十分です。当日来場される方は楽しみにしていてください。

SHARE

  • X
  • Facebook
  • LINE