現地取材記者が語る、日本代表のチーム像|森保ジャパン アジアカップ戦記

Taisei Iwamoto

日本代表

2024.01.31

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現地取材記者が語る、日本代表のチーム像|森保ジャパン アジアカップ戦記

1mm編集部

Writer / 1mm編集部

Interviewer / 北健一郎・安藤隆人

Editor / 舞野隼大

アジアの厳しさを再認識させられた。AFCアジアカップ2023で優勝候補の筆頭として挙げられる日本代表は、グループステージ第2節・イラク戦で敗戦。決勝トーナメントへ、グループ2位で通過した日本にどんなことが起きていたのか。監督が選手の意見を尊重する「ボトムアップ型」のマネジメントを採用する森保ジャパンはどんなチームなのか。現地で取材をする1mmの編集長・北健一郎とサッカージャーナリスト・安藤隆人氏が解説していく。

動画ver.はYouTubeにて公開中!

GS3試合で見えた、森保ジャパンの現在地

 アジアカップのグループステージ3試合を終えて、日本は2位でノックアウトステージへとコマを進めました。この3試合を振り返っていきたいと思います。安藤さんは第1節ベトナム戦の日本代表をみて、どう感じましたか?

安藤 コンペティションは決勝までの7戦を考えて、例えばW杯なら日本は初戦に全身全霊で挑みますけど、アジアカップは優勝を宿命づけられている大会で(エネルギーを)分配しなければいけない。その初戦でフルパワーは使いたくないなか、一時逆転される展開になったことでプランが狂ってしまった。我々も見ていて、こんな感じなのかと予想外のところがあったので、そこの修正力は問われましたね、

 その試合をなんとか勝利して、次はグループ内でもっとも強いと言われているイラクが相手で、敗戦という結果になってしまいました。

安藤 予測がしにくいサッカーをしてきたので、そこに対してなかなかセオリーが通じず、ちょっとした綻びが広がっていって敗戦につながっていきました。細かい部分はいろいろありますけど、大まかにはそういう印象です。

 2点を決めたイラクのアイメン・フセイン選手は(グループステージの3試合で)5点を決めているんです。アジアレベルであればシュートを外してくれたり、空中戦で競り勝てるような予想もありましたけど、そこで決められてしまったということで日本のゲームプランは崩れてしまいました。そこから立て直そうとはしましたけど、うまくいかなかったという感じでした。

安藤 一度狂った歯車をどう戻すか、どうやってピッチのなかで選手が修正するか、監督が修正するかというチームメカニズムの難しさが最初に出てきた印象です。

 2試合目の敗戦という結果は、アジアカップに関して言うと1988年以来だったらしいんです。日本はアジアのなかではそれなりに強い国ということで、グループステージで負けることはほぼなかったのに負けてしまった。しかも史上最強のチームと言われていたのにもかかわらず。日本の初戦からずっと取材していますけど、ここで明らかにチームの空気が変わったなと感じたんです。

安藤 それはどんなふうにですか?

北 今の選手たちはヨーロッパでプレーしている選手たちばかりで、自己主張もあるけど、より自分の意見をミックスゾーンでもどんどん発信するようになりました。おそらくチーム内でも相当積極的な意見交換が交わされていたというところで、それを踏まえてのインドネシア戦でした。予選突破を決めていない状態でこの3戦目に本気で臨む空気感ができてきたのかなと思います。

日本の新たなリーダー・冨安健洋

 第3戦のインドネシア戦はメンバーが大きく変わりましたが、一番大きかったのは(怪我明けの)冨安健洋選手をスタメンにしたことですね。

安藤 やはり選手のみなさんが冨安選手のすごさを語るんです。毎熊(晟矢)選手が言っていたのですが、「冨安選手が誰よりも早くラインを上げていて、ここにポイントがということを誰よりも早く理解しているので、僕が冨安選手に合わすのではなく、僕が彼の意図を早く感じ取ってそこへいけるような選手にならないといけない」と話していたんです。これはすごくいいことで、ワールドクラスの選手がいることで、毎熊選手はワールドクラスの感覚を今ここで得ようとしている。これがチームの成長につながっていくんです。

 今大会を通じて、冨安選手が新しい日本のリーダーになっていますよね。前回のW杯ではプレーヤーとして高い能力を持っていることはわかっていましたけど、どちらかといえば若手寄りの選手でした。自分がチームを引っ張るという空気はそこまでなかったですけど、今回は遠藤航選手というキャプテンがいて、冨安選手は一緒にチーム全体のことを見てモチベートしたり、周りに働きかけたりしているなということがすごく伝わってきます。

安藤 アビスパ福岡のユースの頃から取材していますけど、本当にまじめで、サッカーを第一に考えているんです。アビスパの練習場から駅まで歩くんですけど、途中でみんながコンビニに寄っても外で待っているんです。自販機でみんなが炭酸ジュースを買っている時も無言で水を選んでいました。僕だったら普通にファンタとか買いそうですけど(笑)。

 (笑)。それだけ自分を律することができるからこそ、周りの選手に対しても説得力を持つんですね。

安藤 最初のW杯では自分を律しながら周りについていくこと、迷惑をかけないようにしていたのが一皮むけて日本最高峰の選手という自覚が出てきて、積極的に発言している。正直、人が変わったんじゃないかと思うぐらい積極的でした。元々そういう人間だったにせよ、いろいろなものが彼の土台になっていると思います。

 冨安選手がリーダーシップを発揮しているという話につながりますが、今、選手たちから意見がチームにたくさん出ているんです。それはリーダー格の選手だけでなく、久保建英選手や堂安律選手のような若手のアタッカーの選手たちもどんどん発言しているんです。これは森保一監督のチーム作りと関連しているんだと思います。

安藤 エゴが強い選手や個性的な選手が多いので、「この通りやれ!」と指示を出すことはある意味簡単だと思います。意見を言うということは、どんどんいろいろな声が出てくるということになるので、「なんで俺の意見を聞いてくれないのか?」となる。選手の声は大事ですけど、それが大きくなりすぎると今度は組織のガバナンスがとれなくなってしまう。でも森保監督はそれを把握しながら向き合っているからこそ、ちゃんとしたガバナンスがとれているなと見ています。

勘違いされがちなボトムアップ型の前提

 日本代表がインドネシア戦で勝って、ノックアウトステージ進出を決めた翌日に森保監督とのお茶会があったんです。今大会を現地で取材している記者の人たちが集まって、森保監督とざっくばらんに話しましょうという会でしたけど、完全に囲み取材みたいな感じになっていましたね?

安藤 僕は1列後ろのほうで見ていましたけど、囲み取材と化していましたね。

 森保監督は「ボトムアップ型のチーム作りをしている」と記者会見でも話していて、お茶会で森保監督が強調していたことは「最終的に決めるのは自分です」ということでした。

安藤 それは当たり前のことなんですよ。社長がいない会社、監督がいないチームはありませんよね。必ずすべての組織に最終決定者がいて、そこに選手や仕事をする人がいる。この関係が崩れた時点で組織として機能しなくなってしまうんです。だから意見は出て、聞くけども、決定権は監督にあるという前提だけは絶対に忘れてはいけない。結果によっては(監督が)責任をちゃんととるということは当たり前のことですし、森保監督の考えに僕は同調しますね。そもそも、僕はボトムアップ型とかトップダウン型という言葉で分ける必要はないと思っているんです。「ボトムアップ」という言葉が先行しすぎて、よく見ると放任になっていたり、選手や部下を押し込んで議論させてしまっているケースもある。

 「よし、ボトムアップでやるぞ! お前らボトムアップでやれ!」と丸投げにするのは違うと。

安藤 そうです。ボトムアップというのは、枠を決めたなかでやらないといけない。しかも日本代表という個性が強いなかでそれをやるというのは、相当なマネジメント能力が必要になります。私、名城大学の体育会蹴球部でフットボールダイレクターもやっているんですけど、(森保監督のマネジメントは)非常に参考になっています。全体の意見を吸い上げながら決めるというやり方は参考にしていきたいですし、森保ジャパンのここに注目してほしいですね。

 そうしたチームづくりで難しかったことも一つ乗り越えて、決勝トーナメントの1回戦で日本としては予想していなかったバーレーン戦へ臨むことになります。日本にとっても予想外ではありますが、中6日あるのでしっかりと分析はできているでしょうし、チーム全体としてなめてかかるようなことはないと思います。それにここから中2日や中3日で試合になっていくのでどんどん試合感覚が短くなって、チーム力が問われることになりますが、バーレーン戦はどんなメンバーで臨むと思いますか?

安藤 勝たないと次にはいけないので、やり方を変えることもないと思います。僕としてはサイドバックが誰になるか気になるところです。

 インドネシア戦はチームとしてうまくいっていて、どちらかといえば相手を押し込む時間が長かったじゃないですか。バーレーン戦はその試合展開と近いものになると思っていて、そうなるとメンバーをローテーションしたインドネシア戦のメンバーを中心に組む。そして中2日でイラン戦に迎えなければいけないので、そこへベトナム戦やイラク戦のメンバーで臨むという入れ替えが発生するのかなと思っています。

安藤 僕も、バーレーン戦から中2日しかないので勝ったとしても同じメンバーではいかないと思っています。バーレーン戦と次の試合を2試合セットで見て、バーレーン戦にまず臨んで、その上で勝ったら次のメンバーを出すという状況になると思います。中6日でじっくり準備できる期間があるので、そこはよかったポイントなのかなと思います。

 今の日本代表はAチーム、Bチームと分けるのではなく特徴の異なる違うチームを作っているイメージですね。

安藤 そこが期待したいところですし、これまでのチームづくりの真価が問われてくるかなと思います。

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