浦正弘
オーストラリア代表選手が明かす、勝点1を強奪した森保ジャパン対策の正体|運命を再び手繰り寄せた“Socceroos”
Writer / 小津那
Editor / 難波拓未
「運命が再び手の中に戻ってきた」
10月15日に行われた北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選で、敵地で日本代表と対戦して1-1のドローに持ち込んだオーストラリア代表。この試合を現地で取材していたジョーイ・リンチ記者は『The Guardian』 で確かな手応えを綴っていた。
9月シリーズまでは1分1敗で5位に沈んでいた通称”Socceroos”は、10月シリーズの初戦で中国代表を3‐1と最終予選初勝利を収めており、勝点4を奪取。グラハム・アーノルド監督からトニー・ポポヴィッチ監督へ新指揮官を交代した翌月に日本代表を苦しめた守備を紐解く。
“コンパクト3ライン”と三角形の黄色い壁
「今日は集中力が一番大事なテーマだった」
そう語ったのはキャプテンを務めるMFジャクソン・アーバインだ。[3-4-2-1]の日本代表に対して、オーストラリア代表も同じ布陣を採用してミラーゲームで臨む。守備時にはウイングバック(WB)を最終ラインに落として5バックを形成し、その前に中盤4枚を並び、最前線にFC町田ゼルビア所属のFWミッチェル・デュークが構える“3ライン”のブロックを組み、日本代表の攻撃をことごとく弾き返した。
特筆すべきは、このブロックのコンパクトさだ。縦は最終ラインから1トップまで基本約30m、サイドは基本ペナルティエリア幅に締めて日本代表のボール保持に対応。黄色い壁は三角形に近い形を維持していた。一瞬の気の緩みでスキが生まれて距離が空くと、そのスペースにボールを刺されて大ピンチを招いてしまう。まさに主将が言うように、間違いなく集中力が必要だ。
アーバインと共に中盤に並んだMFルーク・ブラッタンが、この陣形の狙いについて詳しく解説した。「日本代表はとてもいい選手ばかりだ」というリスペクトから形成されていたことを明かしつつ、「中央をブロックしてワイドな展開に持ち込もうとした。僕たちには背の高いDFが多く、クロスに対応できるからね。とにかくコンパクトに保ち、素早くラインを崩していく相手に対して、ワイドにプレーさせようとすることがゲームプランだった」と。
*29:27 のシーン
オーストラリア代表は日本代表のビルドアップに対して“コンパクト3ライン”を形成。
29:51には狙い通りサイドに展開させてボールを奪い、左サイドからカウンターを仕掛けている。
vs “世界最高のドリブラー”三笘薫
屈強なCBが揃うオーストラリア代表の強みを生かすためにも、日本代表の攻撃をサイドに誘導することが意図だった。しかし、日本代表はサイドに三笘薫や堂安律らタレントを擁しているのも事実。「世界最高のドリブラーだ」と右WBに入ったDFルイス・ミラーは、幾度となく対峙した三笘をそう評した。「彼の動画をたくさん見た」と準備してきたマッチアップを振り返っている。
「彼が方向転換するターンの急激さは明らかに計り知れない。0から100まで上げるスピードがとても速いんだ。ついていくのは本当に大変だったね」
ミラーには、2つの感触があったという。それはどちらも自らが187cmという高身長(三笘は178cm)であるが故に起こったもの。「僕は体格の関係上、低い姿勢でいなければならないときがあった。僕は彼より少し大きいからね。だから、彼がドリブルを始めた瞬間に一瞬反応が遅れてしまうんだ」と、まずは高さが不利に働いたことを明かしながら「逆サイドからのハイボールを守れる」と、有利に働いた側面についても言及している。
空中戦で全勝した本人のデータが物語っているように、サイドチェンジから攻撃を仕掛けようとする日本代表に対してミラーはフィジカルを生かして対処した。
「彼はとても俊敏だし、世界最高のリーグであるプレミアリーグでプレーしている。でも、もし自分がトップレベルに到達したいのであれば、もっと上のレベルの選手を恐れてはいけない。ミトマは最高の相手だったよ」。「ワールドクラス」だと評する三笘との駆け引きを終え「僕にとってはすごく学びになった」と、今後への更なる成長へ向けて目を輝かせていた。
「+1」と「高さ」でクロス対応が機能
では、主将のアーバインが「クロスには対応できる」と話した中央での守備はどうだったのか。三笘と対峙し続けたミラーに「コンパクトな3ラインの守備には手応えはあったと思うけど?」と聞いた。すると、背番号3は笑みを浮かべ、自身の見解を語った。
「かなりコンパクトに保って幅を狭くし、ボールを外に出すようにした。ワイドにいる選手たちのクオリティが高いから、まだ脅威があるのは確かだけど、(コンパクトな3ラインを敷くことによって)僕らには常にカバーするプラスアルファの選手がいる」
*65:43のシーン
中央をコンパクトにすることで日本代表の攻撃をサイドへ誘導。
中盤4枚のラインで攻撃を停滞させたことで、三笘にボールが渡ったときには3人がカバーできる状態となっている。この状態を何度も再現した。
「だから、僕や他の選手がやられても、常にプラスワンの選手がカバーすることができたし、今日はそれがとてもうまく機能したと思う。多くのチャンスを制限したし、体を張ってシュートをブロックした。 今日はとてもうまく機能したと思うよ」
事実、オーストラリア代表はこの日22本のクリアを成功させている。そして、日本代表にクロスを通させたのは、31本中3分の1以下となる8本のみだった。特に、DFハリー・スーター(200cm)とDFジェイソン・ゲリア(180cm)のCB2人で合計15本を跳ね返しており、狙いを見事に体現していたのだ。
ポポヴィッチ監督も「スタメンの全員が欧州のトップリーグでプレーしている相手のチャンスを最小化できたことは、とてもよかったと思います。質の高いチームなので凌げなかった場面もありましたが、組織的に守りを組み立ててプレーできた」と話せば、アーバインも「クロス対応も含め、90分間集中して守備ができることを証明した」と振り返ると共に“日本対策”への確かな手応えを口にした。
新体制2試合目で守備をしっかりと構築し、現在の“アジア最強”とされる日本代表から勝点1をもぎ取って本大会出場に望みをつなげたことは大いに評価すべきだろう。
しかし、オーストラリア代表の攻撃はシュート1本のみ。58分の先制点は谷口彰悟のクリアミスによるオウンゴールだ。指揮官は「オーストラリアはすべての分野で改善する必要がある」と課題を認めながら、「チャンスを作れなかったのはオーストラリアだけではありません」と、ここ3試合で14ゴールを奪ってきた日本代表の攻撃を抑えたことに手ごたえを得ていた。
「彼の哲学はアニ(アーノルド監督)とは明らかに違う」(ミラー)
これからのオーストラリア代表は「もっと流動的なサッカーをしようとしている」。オウンゴールを誘発したミラーは今後の代表の方向性を明かし、適応にはまだ時間が必要であることも口にした。
守備に軸足を置く決断には、オーストラリアメディアから批判も飛んだ。しかし、勝点差やチーム状況を踏まえれば、「非常に短い時間で前進するためのベースを整えることができたことが大事。将来的には大きなメリット」(アーバイン)を日本代表戦で手にしたことの方が、今後への布石につながっていくはずだ。
敵なし状態だった日本代表を短いスパンで研究して守備を構築し、チーム全員でそれを貫徹し、勝点1を持ち帰ってみせた。日本代表との次回対戦は2025年6月。オーストラリア代表の復活を託され、短期間で守備の基礎を築いたポポヴィッチ監督が「再び手の中に戻した」運命を拓いていく。
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