Taisei Iwamoto
“修正力”でつかんだ逆転劇|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsベトナム
Writer / 北健一郎
1月14日、日本代表はアジアカップのグループDの初戦、ベトナム戦に臨んだ。前半に南野拓実が先制しながら、セットプレーから立て続けに2失点を決められる苦しい展開に。それでも、前半終了間際に南野、中村敬斗の見事なゴールで3-2と逆転に成功する。後半から出場した上田綺世にも追加点が生まれて4-2で突き放した。よもやの2連続失点から鮮やかな逆転に至るまで、ピッチでは何が起こっていたのか。
久保建英が感嘆したベトナムのうまさ
アジアカップ優勝に向けて、最高のスタートを切るはずだった。しかし、初戦は“簡単な試合”にはならなかった。
11分に幸先よく先制に成功したものの、そこから雲行きが怪しくなっていく。むしろ、セットプレーから連続失点を喫して、一時は1-2で追いかける展開となった。
ベンチから試合を見守っていた久保建英が「どんな練習をしているのか、見てみたい」と感嘆したベトナムのビルドアップが苦戦の要因だった。
5-4-1システムのベトナムは、ダブルボランチが代わる代わる下りてきて、日本の前の選手たちの間でパスを受ける。プレスをかけていっても、ワンタッチで簡単にはたかれ、つかまえられない。
2019年のカタールとのアジカップ決勝では、ビルドアップに対するプレスの噛み合わせの悪さをピッチ内の選手だけでは解決できず、2点を先にとられ、リードされて前半を折り返した。そのまま悪い流れを変えられず、1-3で敗れている。
森保ジャパンは5年前とは違っていた。
ベトナムのパス回しには手を焼きながらも、徐々に主導権を取り戻すと、45分に遠藤航の縦パスから南野拓実が同点弾、6分のアディショナルタイムの49分には中盤でパスを受けて前を向いた南野が運ぶと、最後は中村敬斗がカットインから“ゴラッソ”を突き刺して3-2。
理想的な試合展開ではない。それでも、“簡単ではない試合”を前半のうちに、自分たちで修正して逆転し、ハーフタイムを迎えた。
三笘薫からの「ヒデくん、下がりすぎ」
試合後、現地まで来ている記者のためにと、ミックスゾーンでの“追加取材”に応じた森保一監督は「初戦の難しさを学んだ試合になった」と口にした。
「トルシエさんが非常に戦術的に組織立った対応をされてきて難しい戦いになりました。ワンチャンスに懸けてくる相手に対し、大いに反省しなければいけないですし、次に向けて修正しなければいけないと思っています」
2002年日韓ワールドカップで日本代表を率いたフィリップ・トルシエ監督をたたえるとともに、前半のうちに逆転した選手たちを称賛した。
「難しいゲームでも選手が集中を切らすことなく、チームとして90分+アディショナルタイムを通して戦ったこと、落ち着いてプレーしてくれたことが逆転されたあとの同点につながりました」
外国人記者も含めて大勢の人が目の前に座っている記者会見と異なり、ミックスゾーンには日本の記者しかいない。「ハーフタイムにどんな修正をしたのか?」と問われると、森保監督にしては珍しく、戦術的に踏み込んだ回答が返ってきた。
「相手が5-4-1の3バック、我々は4-2-3-1の4バックで、守備の噛み合わせをうまくしなければいけなかったところ、相手の選手の技術もしっかりしていましたし、なかなかプレッシャーをかけられないなか、4-1-4-1気味にしたり、より相手の3バックやダブルボランチが流動的に動くことに対して、どうやってプレッシャーをかけていくかというところの役割をハッキリさせて、修正したのはよかったです」
後半、日本は遠藤航とダブルボランチを組んでいた守田英正を1列高い位置に上げて、南野と2列目に並ぶ、4-1-4-1システムに修正した。それによって、ベトナムのダブルボランチのマークが明確になった。
日本代表のYouTubeチャンネルで配信された「TEMA CAM」では、前半が終わってロッカーに引き上げる際に「ヒデくん(守田)、下がりすぎ」と声をかける三笘薫が映っている。
何が問題点なのかを、試合に出ている選手だけでなく、外から見ている選手も含めて考えて、自分たちで解決するために意見を出し合う──。
就任以来、選手に主体性を求め続けてきた森保監督は、ピッチサイドで誰よりも頼もしく感じたのではないか。厳しい試合の後には似合わない、充実感を漂わせた表情が、それを物語っていた。
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