Taisei Iwamoto
なぜ細谷真大は試合から消えてしまったのか?|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsベトナム
Writer / 北健一郎
日本代表はアジアカップの初戦・ベトナム戦に臨んだ。前半に南野拓実が先制しながら、セットプレーから立て続けに2失点を決められてしまう。それでも、前半終了間際に南野、中村敬斗の見事なゴールで3-2と逆転に成功する。後半から出場した上田綺世にも追加点が生まれて4-2で突き放した。勝利の裏側で、先発出場しながら前半だけで交代となった細谷真大にとっては、悔しさに満ちた45分となった。
決まらなかったファーストDF
悔しさが、滲んでいた。
ベトナム戦でCFとして先発起用された、細谷真大だ。パリ五輪世代のエースは、11月に日本代表に追加招集されると、アウェイのシリア戦で国際Aマッチ初ゴール、1月1日のタイ戦でもスタメンとしてプレー。アジアカップ本大会のメンバー入りをつかみとった。
FWのライバルのコンディションが整っていない中で巡ってきたチャンスだった。しかし、ピッチ上で爪痕は残せなかった。前半45分間でボールに関わった回数は数えるほど。何もできないまま、ハーフタイムに上田綺世との交代を命じられた。
「ギアを上げるべきだった」
細谷は5分ほどの囲み取材のなかで、何度も同じ言葉を繰り返した。CFに課せられる大きなタスクの一つが、ファーストDFとして守備のスイッチを入れることだ。守備のスイッチは“合図”と言い換えてもいい。CFのプレスを合図にして、後ろの選手はボールを奪うために動き出し、DFラインは連動して押し上げる。
「攻撃でも守備でもスイッチを入れられる選手なので、守備の部分でもいいスイッチを入れるように頑張ってほしい」
1月1日のタイ戦の前日会見で、先発出場が濃厚だった細谷に対して森保一監督は期待を寄せていた。細谷がパリ五輪から“飛び級”してアジアカップのメンバーに選ばれたのは、攻撃と守備の両方でA代表の水準に達していると評価されたからだった。
だが――。
ベトナム戦での細谷は守備のスイッチを入れられなかった。
どこでスピードを上げるのか、どのパスコースを限定するのか、今は奪いに行くのか、それとも待つのか。後ろから声をかけて前の選手を動かすこともあるが、どうしてもタイムラグが生まれる。それゆえに、CFが自分で“決める”ことが求められる。
「もうちょっと前から行って取れるかなと思っていたのですが、思っていた以上につなぐのがうまくて……」という戸惑いが、細谷の持ち味である思い切りの良さを奪った。ファーストDFが決まらなかったことで、チーム全体のプレスがハマらなくなってしまった。
キャンセルされた細谷へのパス
細谷のストロングポイントは誰が見ても明らかだ。スペースがある状態でパスを受ければ、タックルを受けながらも倒れず、ゴールへ突き進んでいく。前への推進力に関しては、他のFWと比べても高いレベルにある。
ただ、ベトナム戦ではそもそも細谷にほとんどボールが入らなかった。最前線の細谷はベトナムのCBに常に監視されていた。ピッタリとマークにくっついている状態では、ボールを持った選手はパスを出しづらい。
「自分があまりボールに触っていないというのは、タイミングが悪いということ。もっと(パスの出し手との連携を)深める必要があるなと思います」
日本代表では5試合目、しかも、森保ジャパンの主力級の選手と実戦でプレーできた時間は少ない。細谷がどんな選手なのか、何ができて、何をしたいのかが、明確に共有されている状態ではない。
ベトナム戦では細谷にパスを出すのを“キャンセル”するシーンが何度も見られた。
右ウイングの伊東純也が右から中にドリブルで運んできて、細谷に預けようとしたけど他の選手に出す。ボランチの遠藤航が前を向いて最前線の細谷を見たけど、縦パスではなく横パスに切り替える、といったように。
細谷がA代表の中で確固たる地位を築いていないからといえばそれまでだろう。ただ、ワールドカップも経験した選手からすれば、真剣勝負の場で、1つのミスが勝敗に関わることをわかっているからこそ、リスクが高いと感じたプレーは選べないのだ。
細谷が試合から消えてしまったのは、それゆえだった。
ハーフタイムで交代を命じられ、さまざまな感情が渦巻いただろう。それでも、細谷が相手のせいとか、味方のせいにすることはなかった。まっすぐ前を見つめながら、自分に矢印を向けていた。
果たして、次のチャンスが回ってくるはわからない。怪我をしている選手が回復してくれば、FWの4番手という位置付けになるだろう。それでも、日本の11番を背負う選手が、このまま終わるはずがない、終わっていいはずがない。
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