Taisei Iwamoto
鈴木彩艶は日本の守護神になれるのか?|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsイラク
Writer / 舞野隼大
アジアカップのグループステージ第2節で、イラクに1-2とまさかの敗戦を喫した日本代表。批判の声は、第2次森保政権以降、ゴールマウスを守る機会の増えた21歳の守護神・鈴木彩艶にも集中。中には人種差別的発言など心ないものもあったという。しかし彼はピッチ内でも、ピッチ外でも外側に矢印を向けず、タフなメンタリティで今すべきことに集中している。
敗戦後も見せた、堂々とした振る舞い
アジアカップのグループステージで、日本はイラクにまさかの敗戦を喫した。
1失点目は開始5分、左サイドから上げられたクロスを、GKの鈴木彩艶がパンチングで弾いた先にいた相手に頭で押し込まれたもの。“アシスト”のようになってしまったことで、日本中でGKへの批判が巻き起こった。
かなり落ち込んでいるのではないか--。そんな予想は、外れた。試合後の鈴木は驚くほど変わらなかった。まっすぐに背筋を伸ばし、どんな質問にも、堂々と答えていく。
「日本代表のGKである以上、高いレベルが求められるということはわかっています。そこは受け入れながらも、次につなげていきたい」
失点につながったパンチングについても、自分のプレーを冷静に振り返りながら、改善点を挙げた。
「ファーに相手選手が見えていたので、(クロスに対して)出ない選択肢はなかったです。そこで体の向きだったり、細かい部分はもうちょっと改善できる点があったと思います」
この大会を迎えるまでの代表キャップ数はわずか4。浦和レッズでも西川周作という高い壁に阻まれ、リーグ戦の出場数は2年半で8にとどまった。本格的に試合に出るようになったのは、2023年8月のベルギーのシントトロイデンに移籍してからだ。
特大のポテンシャルを持っているが、実戦経験が極端に乏しい。日本代表の正GKを任せるのは「時期尚早」なのではないか--。そういった周囲の声を本人が気にしている様子はない。
「たとえ自分のミスから失点したとしても、今までやってきたことは別になくならない」
1試合1試合、いや、1プレー1プレーが自分にとっての血となり肉となっている。新しい学びを得られるのが、うまくなるのを感じられるのが、楽しくて仕方ないのだろう。
負けるつもりはない。結果で見返す
イラク戦で“敗因”の1人とされた、鈴木にはさまざまなメッセージがSNSなどを通じて送られてきたという。ガーナにルーツを持つ鈴木への人種差別的なものもあった。
21歳のGKが乗り越えるには、あまりにも過酷な状況と言っていい。ただ、鈴木は胸を張る。
「自分としてはそこに負けるつもりはないですし、結果で見返してやろうかなという気持ちでいます」
イラク戦の後も黙々と汗を流し、次のインドネシア戦への準備を進める姿がトレーニング場にはあった。
日本代表のチームメートは、批判を浴びている鈴木をサポートしようと結束を強めている。ベトナム戦、イラク戦にセンターバックとして先発出場した谷口彰悟は言う。
「周りがなんと言おうが、みんなザイオンやGK陣のことはリスペクトしていますし、全幅の信頼を置いています。自信を持ってピッチに立ってほしい」
GKは経験が重要なポジションと言われる。バックパスの処理にもたつく、ボールを弾く場所がずれる、キャッチに行ってこぼす。ちょっとしたプレーによって、試合の空気は変わり、勝敗までも決まってしまう。
GKが不安定なまま、トーナメントを勝ち抜いていくのは簡単ではない。アジアカップで勝つことだけを考えれば、ベテランを復帰させるという選択肢もあっただろう。それでも森保一監督は21歳のGKの成長に賭けた。
ここから先、対戦相手のレベルは上がり、試合の緊張感は増していく。鈴木にとっては未知の領域が何度も訪れるだろう。とんでもないエラーによって優勝という目標がついえてしまうかもしれない。
それでも、鈴木には可能性がある。日本人がまだ辿り着けていない、ワールドクラスのGKになる、可能性がある。
この21歳のGKを成長させながら、アジア王者になるという成功体験をつかめれば--10年先までゴールマウスを任せられる、日本の守護神が誕生するかもしれない。
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