なぜ人は、FCふじざくら山梨に魅せられるのか?|女子サッカー界に一石を投じるクラブ

北原基行

女子サッカー

2025.03.22

  • X
  • Facebook
  • LINE

なぜ人は、FCふじざくら山梨に魅せられるのか?|女子サッカー界に一石を投じるクラブ

本田好伸

Writer / 本田好伸

女子サッカー界で異才を放つクラブ、FCふじざくら山梨は、2018年の創設から今年で7年目を迎えた。「競技でも一流、社会でも一流」を標榜し、選手たちは競技と仕事を両立するプレイングワーカーとしてデュアルキャリアを歩んでいる。ふじざくらは今、明確に、業界に一石を投じている。女子サッカーとは、何か。選手は、クラブは、どうあるべきか。今季からなでしこ2部で有料化試合に踏み切るふじざくらは、何を示すのか。
(第1回/全2回)

選手を見れば、クラブの価値が分かる

アスリートの「競技」キャリアは、決して長くない。高校卒業後、あるいは大学卒業後にトップカテゴリーのチームに所属して、そこから10年以上第一線で戦う選手は全体の数割にも届かないと言われている。

トップ選手として、10年に満たない時間の中で、選手たちは何を果たすのか。どんな価値を示すのか。そしてそれは、ピッチの中だけで完結するものなのか。

いや、それは違う。2018年、富士山を眼前に望む山梨県富士北麓地域で設立された「FCふじざくら山梨」は、明確にこれを否定する女子サッカークラブだ。

ふじざくらは「競技でも一流、社会でも一流」を掲げ、アスリートのデュアルキャリアを推進するクラブである。選手たちは「プレイングワーカー」として平日は週4日、日中の67時間は社会人として働き、その後、夕方から選手として3時間ほど競技活動をする。「二刀流」ではなく、このクラブではそれが当たり前の基準だ。

ふじざくらがどんなビジョンを描くクラブであるかは、ぜひこの記事も読んでもらいたい(https://1mm-soccer.com/women/1415/)。

選手たちは、ピッチのの両方の活動を通してキャリアを形成しようとしている。競技だけではない活動を「サッカー」と同等に扱うことは、クラブのアイデンティティである。

「みんな競技は頑張れる。仕事にもオフザピッチにも、それと同じ熱量で向き合えるかが大事」

チーム創設時からのフロントスタッフであり、今季、3年ぶりに指揮を執る田口友久監督は、そう断言する。7シーズン目を迎えるクラブは、なでしこリーグ2部という舞台で、女子サッカー界に一石を投じている。

クラブの価値とは、何か。強さか、資金力か、観客数か。

一つだけ確かに言えるのは、「人」である。

7年間、クラブ創設時から突き進んできたフロントスタッフの想いと熱量と行動力によって紡がれてきたものの帰結として今、ふじざくらが社会に価値を提供できるのは、「選手」である。

クラブの価値は、選手を見れば分かる。

その最たる例が、昨シーズン限りで現役を引退した松岡沙由理だ。彼女は、ふじざくらのコンセプトを誰よりも体現した選手の一人だろう。

2019年に一度は選手を引退したものの、クラブのビジョンに触れたことで感化され、門を叩き、2021年に現役復帰した。そして3年間クラブでキャリアを重ねて、再び引退を決めた。

彼女は、引退に際してクラブの公式HPでメッセージを寄せた。その言葉には、松岡がふじざくらを象徴するような選手であることと、クラブの価値を示していることがにじみ出ている。

「入団する前は将来に不安を抱えながらプレーしてきました。ですが、このチームに来て、将来何をしたいか明確にすることができ、そのために何をしなければならないのか、サッカーをしながらも将来のために準備することの大切さを教えてもらいました」

山梨県リーグも、関東リーグも、なでしこリーグも経験した彼女は、ピッチだけではない活動を自ら企画し、形にする中でファン・サポーターを集め、地域から愛される存在となった。

そして今季から彼女は、Jリーグの上位を戦うクラブの広報職に就いた。スポーツクラブのフロントで働きたいと描いた目標にたどり着き、彼女は再びキャリアを磨き始めている。

こうしたキャリアアップこそが、女子サッカー選手のあるべき姿の一つだ。それを支援することがクラブの使命であり、クラブはそのための環境を用意し、選手を後押しする。

田口監督は、新入団記者会見に出席した筆者に強く伝えた。

「今日、この場で見てもらった5人の選手が、1年後、どう変わったのかをぜひ見てほしい」

それこそが、クラブが示す覚悟である。

「プレイングワーカーとは、チャンスを生かすも殺すも、選手たち次第です。だからこそ、僕たちには責任があります。1年後、彼女たちを僕らがどう変えられたかが、自分たちの価値になる」

クラブとは、人だ。

創設から7年、ふじざくらをふじざくららしくしているのは、紛れもなく選手たちである。

有料試合で平均観客数1,500人を目指す

なでしこ1部昇格を目指す今季、ふじざくらは一つの決断を下した。

試合の有料化だ。無料から有料へ。新しいフェーズに突入する。

有料試合が義務付けられているWEリーグとなでしこ1部に対して、なでしこ2部は必須ではない。有料を推奨されているもののクラブの判断に委ねられている実情があり、12チーム中、約半数が無料試合を開催している。

「私たちは、このクラブを、家族で来てもらえる場所にしたいと思っています。私たちの試合を見て喜んでもらえる母数を増やしたいですし、試合を見に来て、試合だけではない部分も楽しんでもらう。ホスピタリティを高めることは大きなテーマですし、女子サッカーを、試合を見る場所だけでは終わらせたくありません」

「人」に集まるのもまた、人である。五十嵐雅彦GMは、有料でも観客を呼べると判断した。

外から見ているだけでも分かる根拠がある。

以下の観客動員数を見てもらいたい。昨シーズンのなでしこ1部、2部それぞれのホーム開幕戦の来場者数だ。有料・無料の違いやそれぞれのクラブが置かれている状況も異なるため一概に判断はできないものの、1,329人を集めたふじざくらが最も集客していたことは事実である。

2024プレナスなでしこリーグ1部 第1節・第2節>

ヴィアマテラス宮崎:1,246
静岡SSUボニータ:1,244
ASハリマアルビオン:664
スフィーダ世田谷FC646
オルカ鴨川FC531
朝日インテック・ラブリッジ名古屋:484
ニッパツ横浜FCシーガルズ:479
スペランツァ大阪:371
伊賀FCくノ一三重:354
愛媛FCレディース:343
日体大SMG横浜:264
バニーズ群馬FCホワイトスター:173

2024プレナスなでしこリーグ2部 第1節・第2節>

FCふじざくら山梨:1,329
ディアヴォロッソ広島:858
岡山湯郷Belle773
FC今治レディース:738
ディオッサ出雲FC688
大和シルフィード:309
吉備国際大学Charme岡山高梁:301
つくばFCレディース:265
SEISA OSAレイア湘南FC254
福岡J・アンクラス:185
ヴィアティン三重レディース:128
JFAアカデミー福島:60

ふじざくらは昨シーズン「ホームで一度は2,000人を達成する」と宣言して臨んだ中で、第7節のFC今治レディース戦のホーム「JITリサイクルインクスタジアム」に3,225人を集めた。

シーズンのホーム11試合の平均観客数は1,260人。クラブの価値は、確実に広がっている。確かに、有料にしても集客は見込めそうだ。だが、このクラブの意識はもっと先にあった。

「今シーズンの集客目標は?」と問うと、五十嵐GMはこう答えた。

「平均1,500人を目標にしています」

そう、増えているのだ。

「よく言われるのは有料にすると減りますよ、と。ただ、80万弱の山梨県民がいる中での1,260人は、伸び代しかない。当たり前のことを当たり前にやっていけば、お客さんは絶対に増えると思います。まだまだ、ふじざくらを知らない人のほうが圧倒的に多いので、そういった方々に対してしっかりとアプローチしていく。1,500人も通過点でしかありません」

ふじざくらが、なでしこ1部、その先のWEリーグ参入を目指す過程で、彼らにとってはまさに通過点。五十嵐GMは「WEリーグでも平均観客数5,000人という基準が設けられ、そこに向かうチームも増えてきている中で、自分たちもそこに割って入りたい」と強い想いを口にする。

「選手の価値を届けたい、試合を見てもらいたいところに対して、無料から有料は大きなチャレンジではあります。今季は1,000円をいただきますが、我々がカテゴリーを上げる中で、なでしこ1部で仮に1,500円、WEリーグで仮に3,000円となった場合、ふじざくらの過程を見ていれば、お金を払ってでも見たい、払うにふさわしいと思っていただくための第一歩です。金額が上がるから減るのではなく、上がっても見たいクラブをどうつくるかだと考えています」

選手が集まり、支えるクラブ、そして、人を魅了するクラブ。

ふじざくらはこの先、どんな未来を描くのか。結果と成果の両立を目指すふじざくらは今季、なでしこ1部昇格と、有料試合の平均観客動員数1,500人と、そして「選手の進化」の、その全てを達成できるのか。ふじざくら、7年目の挑戦が始まっている。

FCふじざくら山梨 公式HP

 

 

SHARE

  • X
  • Facebook
  • LINE