なぜ新サッカーメディア「イチミリ」を立ち上げたのか?|イチミリ編集長・北健一郎

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2024.01.11

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なぜ新サッカーメディア「イチミリ」を立ち上げたのか?|イチミリ編集長・北健一郎

北健一郎

Writer / 北健一郎

あの日、新国立競技場で感じたこと

2024年1月1日、新国立競技場での日本代表vsタイ代表。森保ジャパンは5-0の大勝という幸先の良いスタートを切りました。

能登半島地震が発生したのは、勝利の余韻が残る、試合終了後のこと。スマホからは緊急地震速報が一斉に鳴り出し、長い揺れが続き、船酔いしているような感覚になりました。

記者室にあったテレビモニターがNHKに切り替わると、「津波が来ます!今すぐに逃げてください!」とアナウンサーが叫ぶ声が聞こえました。

しばらくすると、両監督の記者会見が始まりました。このまま仕事をしていてよいのか、うまく頭を切り替えられないまま、とにかくパソコンにコメントを打ち込んだのを覚えています。

実は、1月1日は新しいサッカーメディアを立ち上げる日になるはずでした。ただ、テレビもネットも地震のニュースで、サッカーどころではない。

ひとまず公開は延期し、自分と向き合いました。被災地では苦しい思いや辛い思いをしている人がたくさんいる。サッカーを伝える意味ってなんだろう、この仕事の価値ってなんだろう、と。

でも、どんなに考えても、「サッカーを伝えることを止める」という決断はできませんでした。僕自身、苦しい時、辛い時、サッカーにたくさんのものをもらってきたから。

なぜ「イチミリ」と名付けたのか?

新しいサッカーメディアは「イチミリ」と名付けました。サッカーファンだったら、いや日本人だったら、誰もがピンとくるでしょう。

2022年にカタールで開催されFIFAワールドカップ、日本とスペインのグループEの最終戦、1-1で迎えた51分、三笘薫選手がゴールラインを割りそうになったボールを、ギリギリで中に折り返し、田中碧選手が身体で押し込みました。

決まったのか、それとも決まっていないのか。VAR(ゴールラインテクノロジー)が発動すると、3分間の確認の後、レフェリーはゴールスポットを指差しました。肉眼では割っているようにしか見えなかったものが、ほんのわずか、ラインにかかっていたことが科学的に証明されたのです。

強豪国スペイン戦の決勝点をもたらしたアシスト。通称「三笘の1mm」が、当事者である日本人のみならず、世界中の人々に感動を与えたのは、たくさんのものが詰まっているからでしょう。

最後まであきらめずに奇跡を起こしたアスリートの力、人間の限界を越えた領域を判定したテクノロジーの力、上空から決定的瞬間をカメラでとらえたメディアの力。

僕たちは、サッカーにまつわる「イチミリ」の世界を表現していきたいと思っています。

一瞬で消費されるものではなく、ずっと心に残るようなものを。一つ一つの事象や言葉を、自分たちの視点で丁寧に掘り下げていくつもりです。

今の時代に合ったメディアを

サッカーメディアはすでに飽和状態、レッドオーシャンです。そんな場所で、わざわざ新しいことをやるのだから、他がやっていないことをやるしかない。

とはいえ、独りよがりになるつもりはありません。どんなにこだわったとしても、誰にも見てもらえなければ、ただの自己満足になってしまいます。

現代人が1日に触れる情報量は平安時代の一生分とも言われています。若者が映画やドラマを早送りで見るのは、ある意味で最適化した結果といえるでしょう。

今の時代に合ったメディアとは、どんなものなのか。サッカーの奥深さに、どこまで迫れるのか。たくさんの人に届けるには、どうすればよいか。常にアップデートしていきます。

うまくいかないことは、たくさんあると思います。心が折れそうになるかもしれません。それでも、何度も何度も立ち向かっていきたい。

最後まで諦めずに走り続ければ、新しい景色が見える。僕たちは、とても大事なことをサッカーから教えてもらったから。

イチミリ編集長 北健一郎

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