安藤隆人
大学No.1、浪速のがめつい点取り屋(古山兼悟/大阪体育大→C大阪)|J内定組・未来を担う原石たち
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
2月27日から3月3日に行われた第38回デンソーカップチャレンジサッカー 福島大会。全国の選ばれし大学生(日本高校選抜も参加)が集結して覇権を争う本大会は、毎年多くのJクラブスカウトや関係者が訪れ、大学サッカー界における重要な“品評会”となっている。「J内定組・未来を担う原石たち」では、出場選手の中ですでにJクラブ入りが内定している選手にスポットを当てる。今回は古山兼悟(大阪体育大・新4年生、セレッソ大阪内定)を紹介する。
(第3回/全9回)
ベクトルは常にゴール。大学No.1ストライカー
真っ直ぐにゴールに向かう。ただゴールに向かって走るのではなく、相手の位置を把握しながら、吊り出す動き、引きつける動き、そして出し抜く動きと、多彩なオフ・ザ・ボールの動きを入れ、“ここぞ”というタイミングでゴールに向かって加速する。常にゴールを匂わせる“ザ・点取り屋”。それが関西選抜のFW古山兼悟だ。
大学2年の2022年は、関西学生リーグ1部で19点をたたき出して得点王に輝くと、2023年は18点でランキング3位。貪欲かつクレバーにゴールに向かう姿勢で得点を量産し、J1クラブの争奪戦の末、2023年12月、2025年シーズンからのセレッソ大阪入り内定が発表された。
「前に仕掛けられるのが自分の武器。横に揺さぶる動きを入れながら、よりゴールをこじ開ける確率を高める。これを武器にできるのは、これまでの指導者のおかげです」
大阪府出身の古山は中学時代に地元のIRIS生野SSで基礎技術を伸ばすと、高校は島根県の立正大淞南高校に進学。立正大淞南と言えば、縦への連動でゴールに向かって人が湧き出ていくような攻撃サッカーが魅力で、このスタイルが古山の礎となった。
「常にゴールを意識して、ゴールを奪うため、味方にゴールを奪わせるためのプレーを徹底して植えつけてもらいました」
だからこそ、常にファーストタッチがゴールに向く。ロングボールを受けることもあるが、その多くは最終ラインから素早い縦パスを足元で受けて、スピードそのままに縦に仕掛ける。2列目以降から湧き出てくる味方の動きも視野に入れて、独力で行ける時はそのまま仕掛け、周りを生かせる時はシンプルにパスを出してゴール前に雪崩れ込んでいく。
「高校でゴールに向かう成功体験を何度も積み重ねたことで、自分の大きな武器になった」
高校3年間で培われた、ベクトルが前に向くボールの受け方が土台となり、大阪体育大ではより縦に速いサッカーのなかで進化を遂げた。
「高校の時は縦に行ければいいと思っていたけど、大学1年の時にそれだけじゃダメだと思ったんです。横パスが入った時のポジション修正や、ボールが動いている間にポジション移動を増やして、間に入ったり、スペースを空ける動きをしたりした上で、背後のアクションを入れていく。逆に背後のアクションを入れてから横に動くなど、自分で考えながらトライすることが日常になっていきました」
ゲームの流れに取り残されないどころか、自ら考えながら動いてリズムを生み出しつつ、常にベクトルはゴールへ向かう。得点に対してどこまでも貪欲であり、ゴールへのルートを冷静に創出しながら選択と判断をできる緻密なストライカーでもある。
だからこそ、古山は関西の大学サッカーで大暴れし、「大学ナンバーワンストライカー」としてその名を轟かせることができたのだ。
香川真司からもらったアドバイス
C大阪には彼に良質なパスを供給できる豪華な顔ぶれが並ぶ。香川真司、清武弘嗣というレジェンドはもちろん、今シーズンは大学の先輩である田中駿太も加入した。
「セレッソは僕のめちゃくちゃ地元のチームなので、小学校の時からよく試合を見に行っていました。真司さん、キヨさんはその時から本当にあこがれの選手でしたし、茂庭照幸(現FC刈谷監督)さんなどがいて、攻撃的なスタイルが本当に魅力的でした。それは今も変わらないし、真司さんやキヨさんが海外や日本代表で数多くの経験をして戻ってきている。タイミングよく背後に抜け出せば必ず素晴らしいボールが来ると思うので、本当にたくさんのイメージが湧いてきてワクワクします」
そんな思いを抱きながら実際に練習参加すると、古山は積極的にレジェンドたちに話しかけた。
「お手本であり、勉強にしかならないような選手がいるのに何も聞かないのはもったいないじゃないですか。いろいろな話をしてもらいましたし、時には真司さんに『レヴァンドフスキってうまいですか?』と聞くこともありました(笑)。『お前、おもしろいな』と笑いながらも、しっかりと答えてくれるんです。その人間性もすごいなと思っています」
臆することなく、時にはかわいい一面を見せる後輩の姿にレジェンドたちも興味を持ち、練習中、試合中を問わず、生きたアドバイスをくれるようになった。
例えば古山が角度のないところから強引にシュートを打つと、すぐに香川が駆け寄り、「それは下(足元)につけたほうがいいやろ。シュートも大事だけど、そこは正確性を選んだほうがいい」と的確な言葉をもらった。「そのほうがいいですね、ありがとうございます!」と返した古山に対し、「でもな、『シュート』は常に持っておけよ。その気持ちはいいぞ」という一言に、心が震えた。
「本当に自分は素晴らしい環境でサッカーをさせてもらっているなと。課題を見つけて解消するのも大事だけど、自分の本質的な部分は絶対になくしちゃいけないと思った」
第38回デンソーカップチャレンジサッカー 福島大会(以下、デンチャレ)で関西選抜の10番として出場した古山は、レジェンドたちの言葉を胸に冷静かつ貪欲にゴールを狙い続けた。
グループリーグ3試合でゴールを奪えなかったものの、鋭い裏抜けとラインブレイクの動きを何度も仕掛け、相手の脅威となっていた。特に途中出場したグループリーグ最終戦の東海選抜戦では、柏レイソル入りが内定している大型CB桒田大誠(中京大)とハイレベルなマッチアップを幾度となく繰り広げた。股抜きでかわして突破したり、裏を取ったりと、質の高いプレーの応酬はまさに今大会の大きなハイライトの一つだった。
デンチャレが終わり、次は関西大学リーグ1部とC大阪の両方の活動が待っている。大学でリーグ優勝、2年ぶり2度目の得点王の獲得はもちろんのこと、C大阪での「Jリーグデビュー&初ゴール」という明確な目標もある。
「もちろん難しい道であることはわかっています。だからこそ挑戦したいし、自分の成長の糧にしたい。真司さんから言われたんです。『聞くのも大事だけど、経験しないとわからないこともあるぞ』って。だからこそ、僕はどんどん経験していきたい。『がめつく行ったろか!』と思っています」
ピッチ内でもピッチ外でも貪欲に。浪速の点取り屋がプロの世界で名を轟かすのも時間の問題だ。
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