堂々の宣言「大学在学中にJ1得点王」(塩貝健人/慶応義塾大→横浜FM)|J内定組・未来を担う原石たち

安藤隆人

大学サッカー

2024.03.18

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堂々の宣言「大学在学中にJ1得点王」(塩貝健人/慶応義塾大→横浜FM)|J内定組・未来を担う原石たち

安藤隆人

Writer / 安藤隆人

Editor / 難波拓未

2月27日から3月3日に行われた第38回デンソーカップチャレンジサッカー 福島大会。全国の選ばれし大学生(日本高校選抜も参加)が集結して覇権を争う本大会は、毎年多くのJクラブスカウトや関係者が訪れ、大学サッカー界における重要な“品評会”となっている。「J内定組・未来を担う原石たち」では、出場選手の中ですでにJクラブ入りが内定している選手にスポットを当てる。今回は塩貝健人(慶應義塾大・新2年生、横浜F・マリノス内定)を紹介する。

(第4回/全9回)

高3の冬、才能が解き放たれる

表情を見ただけで、負けん気の強さが伝わってくる。U-20全日本大学選抜のFW塩貝健人は、大学1年生の時点で横浜F・マリノス入りが内定している逸材だ。

デンソーカップチャレンジサッカー 福島大会(以下、デンチャレ)初戦の関西選抜戦では、2023年度の関東大学リーグ1部で1年生ながら得点ランキング3位に輝いたFW内野航太郎と2トップを組むと、息の合った連係を見せた。最前線に張る内野に対し、塩貝は質の高いフリーランニングとボールキープ力を駆使して、ボランチと内野をつなぐ攻撃のパイプ役として機能した。ビルドアップからボールを引き出すと、鋭いターンで前を向き、得意のドリブルで運び内野にラストパスを送り込む。塩貝が内野の得点感覚を引き出したことで、内野はハットトリックを達成した。

「内野は何回か組んだことがあって、ゴール前で仕事ができる選手だとわかっていたので、自分が背後を取りながらラストパスやシュートを狙っていました。その役割ができたのは良かったですが、僕にも背後に抜け出す形からチャンスがあり、それを決められなくて悔しかった。次は僕が得点を決めて、(内野より)多く点を取りたいです」

なぜ塩貝は大学1年生という早い段階でJ1強豪クラブへの加入を決断したのか。そこには激動の1年間があった。

塩貝が一気に日の目を浴びたのは、2023年度の全国高等学校サッカー選手権大会。國學院久我山高校のエースストライカーとして都予選で大爆発したのがきっかけだった。圧倒的な縦への推進力を見せ、準決勝では2得点をたたき出してインターハイ準優勝の帝京高校を撃破し、決勝でも得点を記録。塩貝としては入学してから初の全国大会で、國學院久我山高校としては3年ぶりとなる選手権出場に導くと、全国の舞台でも1得点を決めた。

目に見える結果以上に大きなインパクトを残した。強気な表情はプレーにも反映される。ボールを持ったら1人で相手DFラインを突破すると、ダイナミックなシュートでゴールに襲い掛かる。また、力強いポストプレーで相手を引きつけ、質の高いフリーランニングでボールを引き出し、決定的なラストパスも繰り出していく。ハイレベルかつ高強度で、フィニッシャーとチャンスメーカーとしてプレーできるのだ。

さらに「急に自分は全国に出てきましたけど、『俺が一番だ』ということを見せつけてやります」など、歯に衣着せぬ強気な発言でも注目を集めた。

圧倒的な身体能力と技術、走力を持ち、強気なメンタルを示し続ける塩貝は、Jクラブ担当スカウトの視線を一身に集めていく。しかし、日の目を見るのが遅過ぎた。進路が決まる夏の段階では完全に無名の存在だったためオファーはなく、慶應義塾大への進学を決めていた。

プロの洗礼を浴び、大学進学を決断

埋もれていた才能が高校最後の選手権をきっかけに最注目銘柄へ浮上したことで、選手権後すぐにJクラブが動く。最初にサガン鳥栖から練習参加のオファーがあり、2023年2月に出向くと、プロの洗礼を浴びた。

「なにもできなかった。スピードや前への推進力など自分のアピールポイントを出す前につぶされてしまうし、そもそもプロとしての強度に全く適応できなかった。それ以降も他のクラブから練習参加のオファーはありましたが、当時の自分はプロのレベルではないと思った。なので、その後の半年間は練習参加のオファーをすべて断り、夏休みにもう一度挑戦することを明確な目標にしました」

負けん気の強さのなかには、冷静に自分の現状を受け入れて成長に向けたプランを再構築できる緻密な一面があった。鳥栖の練習参加後に日本高校選抜の一員としてプレーしたデンチャレ福島大会で力強いプレーを見せた後、半年間、慶應義塾大で走力と判断スピード、前への推進力を徹底的に磨いた。

「鳥栖の練習で一番感じたのは、トラップが少しでもズレたり、置きどころを間違えたりしたら、すぐに寄せられてしまうこと。あのプレスを常にイメージしながらトレーニングしてきました」

夏休みにはJ1クラブの練習に行き、シーズン終盤に横浜FMの練習に参加すると、塩貝は確かな手応えをつかんだ。慶應義塾大では関東大学リーグ3部で15得点を挙げて得点王に輝き、チームの2部昇格に貢献した。

大学在学中にJ1得点王を獲りたい

大学でも結果を残した塩貝には複数のJ1クラブから正式オファーが届き、その中から「アタッキングフットボールというクラブの指針を持っているし、なにより在籍する選手たちがプロとして気取っていないというか、向上心を持ってやっている姿を見て、ココだと思いました」と、横浜FM入りを決断した。

横浜FMの最前線にはエウベルやアンデルソン・ロペスなど屈強なブラジル人選手たちが名を連ねており、19歳の塩貝が割って入るのは至難の技だ。しかし、塩貝は「だからこそ価値がある」と言い切る。

「日本で手こずっているようだと、海外は目指せない。日本に来ているブラジル人選手は強烈なライバルであり、壁だと周りは言います。しかし、海外に行けば僕らも外国人選手なわけで、より厳しい目で見られます。そこで中心になっていかないと、すぐに日本に戻ることになり、ステップアップすらできなくなる。監督は『外国人だから……』とか関係なく、絶対に良い選手を使う。だから、自分はその良いほうに入っていかないといけないし、入り続けないといけない。そこは当たり前の競争だし、将来のために必要不可欠なことでもあるので、今年はその足がかりとなるシーズンにしたい」

心地良くなるほどの強気な発言は変わらない。だが、先述したように、その言葉の“行間”には自分の現在地の認識と、緻密な将来設計がある。

「自分の実力は自分が一番よくわかっている。今のままだと、ポテンシャルだけで終わると思っています。でも、自分の良さは強気な姿勢なので、大きいことを言って自分を鼓舞しているんです。“尖り”がなくなったら、僕は負けだと思っているので、尖った部分をどんどん出すことをあえてしています。普通の選手にはなりたくないので」

そして、塩貝は宣言した。

「今年は関東2部で30ゴールを奪って1部昇格を果たすのが大学での目標。マリノスでも今年デビューして、大学在学中にJ1得点王を獲りたい。もしその過程でつまずいてしまうのだったら、自分は“そこまでの選手”ということですから。もちろんチャンスをつかみ取れるかどうかは準備がすべてだと思うので、そこは大事にしたい」

その目は野心に満ちあふれている。日本が世界のトップを目指す上で、塩貝のような選手は重要なファクターになっていく。塩貝の野心と成長は、日本サッカー界の未来を照らす。

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