本田好伸
中西哲生の極意、エモいメッセージの伝え方|進化するN14中西メソッド 筑波大で始まる技術革命
Writer / 本田好伸
中西哲生が久保建英や長友佑都ら、トップ選手とのトレーニングで大事にしてきたものが「言葉」であり「言語」である。言語なしに理論が成り立たないだけでなく、選手とのコミュニケーションも、それなしにはありえない。筑波大と歩んだ2023年の8カ月間、中西が大切にしてきた伝え方の極意とは何か。
(第5回/全5回)
編集協力=伊藤千梅、ウニベルシタ
選手と同じテンションで本人に伝える
サッカーには、言語が必要だ。それなしに技術は進化しない。選手はうまくなれない。チームは強くならない。サッカーは進化しない。言語こそが、サッカーを進化させる。
「選手には、エモーショナルな言葉をかけなければいけない」
これは、中西哲生の信念だ。理論だけでサッカーがうまくなるわけではない。理論があり、伝える人がいて、受け取る人がいて、実践の繰り返しによってその価値が証明されていく。理論は、誰に、何を、いつ、どのように授けるかまでが、なにより重要なのだ。
「筑波大で教えている選手の一人、瀬良俊太がフル出場して最後に試合を決定づけるゴールを決めたんです。すごくうれしかったのですが、試合後に連絡を取って、最初に伝えたのは具体的な話ではありませんでした。とにかく『本当に素晴らしかった』という言葉です」
中西は、選手とのやりとりを「気持ちにチューニングする」と表現する。
「いきなり『今日の何分のあのプレーさ』と言ってもダメだと思います。率直な感想を選手とほぼ同じテンションで本人に伝えることがすごく大事だと考えています。だから、生で、できれば現地で見る必要があります。その瞬間の感情は、その時にしか生まれないので」
そうやって中西は選手とのコミュニケーションを続けてきた。
「調子の良し悪しを含め、『本人が今どういう状態か』と『その時にどの言葉を渡すのか』をすごく意識しています。例えば(久保)建英とやり取りする中で、本人に今言えるのは改善点なのか、それとも今日良かったところの確認なのか。どっちも言わないこともあるし、むしろそのほうが多い。本人にどういう言葉をかけたら、一番ポジティブな連鎖につながるか。本人の思考やテンション、会話の言葉尻を見ながら、適切な言葉で伝えています」
重要なのは「言葉」だ。
中西は、「言語化=再現性を高めてくれるもの」と言う。うまくいったことを言語化し、それが論理になり、再現性が生まれる。言語化の過程では思考も必要だ。思考して言語化し、論理が体系化され、至高のメソッドへと昇華する。
だから中西は選手との対話を重視し、そのための準備を怠らない。
「例えば、うまくいかなかった時は自分が一番わかっているので、そこを指摘することはほぼありません。ネガティブな指摘は、本人から聞いてきた時に適切な言葉を出せるかを重視しています。自分がもっと良くなりたいと思っている瞬間の問いかけに対して、より良い情報を提供することが、自分のベースです。選手が取り組みたい課題こそ、その選手が一番伸びる余地のあるもの。だから、何を聞かれても全部答えられる状態にしています」
想像してほしい。常にインプットとアウトプットを繰り返していく作業は、膨大な時間を必要とする。中西は一切の妥協もなく、そこに向き合っている。
ただし、頑なではない。
「主観と客観を大事にしています。言葉を授けるのと同時に、映像を送ることもあります。例えばシュートの際、選手はボールを見ているつもりでも、映像で確認するとキーパーに視線が向いていることがあります。映像は“事実”として残るので、言葉より優先することもあります。選手は映像と自分のイメージを重ねて、新たな気づきを得ることができるんです」
選手が能動的に教えを求めてくるトレーニング方法である以上、中西には、選手に選ばれなくなったら終わりという思いもある。だから「誰より一番あなたのことを見ているのは自分だよと思ってもらえるかが大事」と言う。
「選手との信頼関係や、コップが上を向いた状態で自分のところに来てくれるかは、そこにかかっている。『中西さんに教わりたい」と思ってもらえるか。だから僕は建英の試合をリアルタイムで見て、すぐに映像を送っていますし、それは絶対に欠かしません』
主観と客観。エモーショナルと論理。中西は、それらを掛け合わせることで価値を生み出してきた。理論があり、それを選手に授ける人のスキルと情熱が何よりも大切だ。サッカーの技術を高めるN14中西メソッドの真髄とは「中西哲生」そのものに他ならない。
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