「君には武器がない」。小学生時代の“トラウマ”を努力で超えた“現代型”遠藤保仁系ボランチ(川上航立/立正大・4年→水戸)|安藤隆人の直送便(大学編)

安藤隆人

大学サッカー

2025.02.14

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「君には武器がない」。小学生時代の“トラウマ”を努力で超えた“現代型”遠藤保仁系ボランチ(川上航立/立正大・4年→水戸)|安藤隆人の直送便(大学編)

安藤隆人

Writer / 安藤隆人

Editor / 難波拓未

高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。大学編の今回は、2025シーズンに立正大学から水戸ホーリーホックに加入した川上航立に焦点を当てる。「君には武器がない」。小学生の時に言われた言葉を原動力に、自問自答を繰り返してきた。逆境の方が多かったサッカー人生だったが、目を背けることなく自己研鑽を続けたからこそ、大学を卒業する今プロサッカー選手として歩を進める。
(取材日:2024年末)

己の武器と向き合い続けて

「僕はどちらかと言うと、アクション系よりも安定系に分類されると思います。そこが求められると思うので、メンタルを浮き沈みさせることなくプレーし、自分の良さをピッチ内でどんどん出していけたらいいなと思います」

川上航立を一言で表すと、非常に自己分析ができている選手だ。これはフィジカル的に不利な部分がある小柄な選手にとって、絶対に搭載されていないといけない必要不可欠な能力である。

川上は171cmと大柄ではないし、爆発的なスピードがあるわけではない。持ち味は、足元の技術と広い視野、キープ力と展開力だ。こういう長所を持つ選手は正直めずらしくない。他の追随を許さないほどの尖った武器がない中で、川上はなぜプロになれたのか。

これまでのサッカー人生を振り返ると、その理由がはっきりとわかる。

大阪府出身で小学校時代はセレッソ大阪ジュニアでプレーしたが、ジュニアユースには昇格できず、その時に「君には武器がない」と言われた。

その言葉がずっと心の中に残り続けた。最初はトラウマを思い出させる言葉だったが、徐々にそれが「自分を成長させるために必要な言葉」に変わっていく。

「俺は何が武器なんだろう」

そう問いかけながら、川上はガンバ大阪門真ジュニアユースに進むと、トップチームでプレーしていた遠藤保仁に憧れた。遠藤のプレーをイメージしながら、周りを見る力とパスセンス、そしてキープ力に磨きをかけていく。

「俺の武器はこれかもしれない」

そう思った川上はG大阪のユースに昇格することができなかったが、後方からパスを繋ぎ連動しながら攻めるサッカーを標榜する帝京長岡高校の門を叩いた。

キープ力やパスを磨きながら、徐々に「自分の武器はチームのためにプレーできる献身性なのではないか」と気づき始めていく。

技術には自信がある。ボールを受けることを恐れない。だが、小学校、中学校といずれも“最終選考”には引っかからなかったように、どの能力も上には上がいて、絶対的な武器にはなっていない。

では、絶対的な武器は何か。自問自答をひたすら繰り返した。

「高校の3年間、僕は常に『与えられた場所で咲く』ことを考えていました。フィジカルの差を感じ、圧倒的な突破力やキック技術を持つ選手のプレーを目の当たりにするたびに、正直、後ろ向きな気持ちになっていました。でも、それはおそらく僕がサッカーをするうえで一生ついてまわる感情だし、何より後ろ向きになった時点で僕は持ち味を発揮できない並以下の選手になってしまう。それだったら今、自分が与えられたポジション、役割の中では何が必要で、何をすべきで、自分に何ができるかを常に考えながらプレーする。それこそが、自分がチームに貢献できる最大の武器だと思ったんです」

「自分が」というエゴイスティック的なものではなく、味方やチームを助けながらプレーすることこそ、自分が生き残っていく道だった。それをはっきりと理解した川上は、頭脳的かつ献身的なプレーを発揮できるようになり、徐々に周囲からの信頼をつかんでチームの中心を担うようになっていく。

着実に出番をつかみ取っていった川上は高校3年になると、チームの象徴とも言える背番号14と腕章を託され高校最後の選手権でチームをベスト4に導いた。

困難に動じない芯の強さ

鳴り物入りで大学サッカーに飛び込んだが、そこにもまた厳しい現実があった。トップチームには1年生の最初の頃に入ることができたが、6月のリーグデビュー以降は出番が訪れず、2年でもリーグ戦には5試合にしか出場できなかった。

「周りから期待してもらいましたし、僕自身も選手権とか、その後の日本高校選抜でプレーをさせてもらって手応えがあったので、もっとやれると思っていました。でも、現実は甘くはなかった」

だが、自分の中に確固たる信念があり、突きつけられる現実への覚悟とそこから目を背けない芯の強さを持っているからこそ、不遇の時期を過ごしても打ちひしがれることは一切なかった。

「正直、うまくいかなくなった時は『そらそうやろな』と思いました。これまで『なんで俺はできないんだろう』と思うことはあっても、『俺なんか無理』とか『なぜ俺がこんな目に合うんだ』なんて思ったことは一度もなかった。周りより足りていない。ただそれだけだからこそ、自分がやるべきことをやりながら、課題に向き合って取り組む。大学で言えば、守備強度が明らかに足りていなかったので、そこを黙々とやるだけでした」

努力の仕方をわかっている人間は強い。コツコツと積み重ねてきた川上は大学3年になるシーズンのリーグ開幕前にチャンスを得る。4年生が就職活動やケガの影響もあって出場できずにボランチが手薄になり、川上に白羽の矢が立ったのだ。課題だった守備を献身的にこなし、持ち前のキープ力とパスセンスを駆使すると、一気に周囲の信頼をつかみ、この年は不動のボランチとしてリーグ戦の全試合に先発出場した。

「試合に出るようになって感じた成長は、1試合を通じてボールを奪う回数が確実に増えたこと。これまで自分の調子が悪いと感じる時は、とりあえずボールを触って自分のプレーリズムをつかんでいこうとするタイプだったけど、それだとチームのリズムが悪いとなかなか良い状態でボールを触わることができずに、そのままチームと共倒れするところがありました。それが良い守備から入ることで自分のリズムをつかめるという感覚を得たので、安定感が生まれてきたと感じるようになりました」

確かな成長を手にした川上は、最高学年で背番号10を託され、高校時代と同様にチームの心臓としてフル稼働。念願のJリーガーにもなることができた。

「プロになれたからOKではなくて、これからも現実を突きつけられる時が何回も来る。その時に何ができるか。僕のプレースタイルは信頼がないと使ってもらえない。どんな時も自分を持って、ブレない。プレーでは波のないようにして、スタッフやチームメイトからの信頼をつかんでいきたい。常に1日1日を100%で取り組み、『こいつなら使っても問題ないな』と思ってもらえる選手になっていきたいです」

川上は音楽で例えるなら『ベース』の役割だろう。目立ちはしないが、組織の中にいてもらわないと困るし、ベースが乱れたらチームも乱れる。その役割を挫折の多かったこれまでの人生の中で『確固たる武器』に昇華していったからこそ、今がある。

2月15日に開幕する明治安田J2リーグ。水戸の心臓としてベース音を奏でる姿をピッチで見たい。

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