安藤隆人
観客として憧れたピッチへ。地元でプロになった野性味×緻密さのハイブリッド・ストライカー(多田圭佑/立正大・4年→水戸)|安藤隆人の直送便(大学編)
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。大学編の今回は、2025シーズンに立正大学から水戸ホーリーホックに加入した多田圭佑に焦点を当てる。スタジアムで水戸の試合を見ていた少年が、野性的で緻密なストライカーに成長し、憧れのクラブでプロキャリアをスタートさせる。瞬間的な決断力や身体操作と、繊細な身のこなしやゴールからの“逆算力”を兼ね備える稀有な才能は、どのように開花させたのか。その成長物語に迫る。
(取材日:2024年末)
ストライカーとしての原点

175cmと大柄ではないが、すさまじいパワーとスピード、得点感覚を持つストライカーだ。高校、大学と多田のプレーを見てきたが、「なぜこのボールをシュートまで持ち込めるんだ?」「何でこの体勢からこんなにも強いシュートが打てるんだ?」と驚きを感じることが多い。
「得点感覚」という言葉で片付けるのは簡単だが、多田のプレーからは瞬間的な決断力や身体操作など野性味を感じる一方で、繊細な身のこなしとゴールの場所をきちんと把握し逆算してフィニッシュするクレバーさも感じる。
野性味と緻密さを兼ね備えた、稀有なストライカーはどう誕生したのか。
茨城県日立市出身の多田は、小さい頃から水戸ホーリーホックの試合を観るためにスタジアムに足を運んでいた。坂本サッカースポーツ少年団時代に水戸のJ2でのホームゲームのエスコートキッズを務めたこともあるという。
中学時代は地元の日立市立坂本中学校サッカー部でプレー。過去には茨城県大会を優勝もしたこともある中学校だが、多田の世代では思うように勝つことができず。県予選の早い段階で敗退することが多かった。
クラブチームと違って選手間に実力差や経験差がある中で、多田は最前線でひたすらゴールに向かって走り続けた。意図するパスや狙った場所にボールが来ることも多くなかったが、どんなラフなボールに対しても愚直なまでに相手の裏を狙ったり、強引にボールを収めて前に運んで行ったりと、自力でなんとかするプレーを繰り返した。
イレギュラーバウンドするボール、ふわりと浮いたボール、スピードのあるボール……いろいろなボールをとにかく収め、そこからゴールを目指す。こうした日々が自然と多田のスピードやフィジカル、身体操作を磨き上げた。それが多田特有の野性味あるプレーとゴールから逆算するプレーが組み合わさった現在の姿の礎となっている。
FWとしての引き出しを増やす

一発のロングボールでシュートまで持ち込んでいく馬力とセンスは、関係者の目に止まって茨城県トレセンに選出された。さらに、トレセンでの活躍を栃木県の名門・矢板中央高校のスタッフが見逃さなかった。
「荒削りだけど、チャンスを感じ取ってものにする感覚は教えられてできるものではない。これは本当にすごい能力だと思う」と矢板中央のスタッフも称賛する多田は、強豪校の門を叩くと一気にその才能を磨き上げていく。
レギュラーをつかんだのは2年生になってから。最前線で何度もスプリントを繰り返して相手DFラインを揺さぶり、背負いながらのボールキープや一発での抜け出しを見せるストライカーとして、押しも押されぬチームのエースに登り詰める。2年生で出場した選手権では準々決勝の四日市中央工業高校戦で圧巻の2ゴールを見せ、ベスト4入りの原動力となった。
「点を取ることだけではなく、僕が前線でボールを収めれば、中盤の選手もゴールに向かってプレーできる。守備でも僕のところで奪えれば、一気にカウンターも仕掛けられる。攻撃だけではなく、守備でも引っ張れるようになりたいと思っています」
この大会でこう口にしていた多田は、3年生になるとさらにパワーアップする。プリンスリーグ関東では前線からのプレスで相手守備陣を苦しめ、奪ってからのゴールやロングボールの抜け出しからゴールを挙げて、9試合(コロナ禍の影響で1回総当たりのレギュレーションだったため)で6ゴールをマーク。得点ランキング2位になった。
高校最後の選手権予選は、準決勝の國學院栃木戦でロングスローのこぼれを豪快なオーバーヘッドで突き刺すなど、ずば抜けた身体能力を示した。選手権本大会こそノーゴールに終わったが、ファーストディフェンダーと攻撃の起点として2年連続ベスト4に貢献した。
大学で得点力を開花させ、地元クラブへ

「高校時代の僕の役割はとにかく泥臭く、チームのために走って、前からプレスを徹底しておこなった上で点を決めることだと認識していました。でも、大学に入ってからは、走るところはベースとして変わりはないのですが、ゴール前で点を取ることに比重を置くようになりました」
立正大で求められたのは、シンプルにゴールを奪うことだった。ただ走るのではなく、『ここぞ』という場面でフルパワーを注ぎ込めるように、オフ・ザ・ボールの質や、ペナルティーボックスに入って行くタイミングとアプローチを徹底して磨いた。
「自分はストライカー。点を取ることでチームに貢献する選手だという自覚が芽生えた」
もともと点を取ることへの執着、意識は強い方だったが、高校ではそこに加えてFWとして果たせる役割の幅が広がった。だからこそ、大学では原点回帰というべきか、ポイントゲッターとしてさらなる進化を遂げるというシナリオが多田の中でできていた。
大学サッカーで頭角を現したのは2年の途中から。スタメンに抜擢されると、一気にゴール量産態勢に入った。2022シーズンの関東大学サッカーリーグ2部で22試合に出場して11ゴールをマーク。得点王になったFW藤井一志に2点及ばなかったが、堂々の得点ランキング2位タイでフィニッシュした。
不動のエースとなった3年時の2023シーズンはリーグ戦で8ゴールを記録。迎えた最終学年では再びゴール量産態勢に入り、15ゴールを叩き出して関東2部の得点王に輝いた。
大学4年間で2部リーグ通算34ゴール。特筆すべきは34ゴール中、PKによるゴールがたったの2つしかなく、ほとんどが流れの中やセットプレーから奪っていることだ。念願の1部昇格は逃したものの、驚異的な得点センスは、生まれ育った地元を本拠地とするクラブでプロキャリアをスタートさせることにつながった。
「僕の地元ですし、若手が主力のチームなので、成長する場としては一番良いと思っています。正直、他のJ2クラブの練習に参加した時、裏抜けなどの部分は通用すると感じたのですが、技術的な部分で足りていないことを痛感しました。水戸は自分に足りない部分があるにもかかわらずオファーを出してくれた。そこは感謝の気持ちが強いですし、試合に絡んでチームに貢献することを第一に考えています」
チームのためにボールを奪い、収めて、ゴールという結果を出す。これまで地道に磨き続けた唯一無二の武器を、プロの世界でも継続して磨いていくのみ。愛着のある地元で成長した姿を見せ、かつて自分が座っていたスタンドの観客を歓喜の渦に巻き込むべく、野性的かつ緻密なストライカーはその能力を解放させていく。
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