Taisei Iwamoto
現地取材記者が語る、森保ジャパンの敗因|森保ジャパン アジアカップ戦記
Writer / 1mm編集部
Interviewer / 北健一郎・安藤隆人
Editor / 舞野隼大
「史上最強」。そう謳われていた日本代表はアジアカップの準々決勝でイランに敗れ、姿を消した。28分に守田英正のゴールで先制したが、流れは変わり、55分に失点。その後も押し込まれ続けた日本は、後半のアディショナルタイムに献上したPKで引導を渡された。日本はなぜ巻き返せなかったのか。ベスト8という結果をどのように捉えなければいけないのか。現地で取材をする1mmの編集長・北健一郎とサッカージャーナリスト・安藤隆人氏がイラン戦と、大会を総括する。
動画ver.はYouTubeにて公開中!
なぜ、不完全燃焼な敗戦と感じるのか
北 日本はアジアカップの準々決勝でイランと戦い、先制に成功しながらも後半に追いつかれ、アディショナルタイムにPKを決められ、1-2で敗戦となりました。安藤さんはこのイラン戦を、どのように振り返りますか?
安藤 結果としてアジアカップのラストゲームがこういうかたちで終わってしまい不完全燃焼以外のなにものでもないかなと。実力で負けたとか、不運で負けてしまったということではなかったと思います。前提として誰かを戦犯に挙げるとか誰かを責めるのではなく、議論として言うと、選手のコンディションにバラつきがあるなかで、出たからには日本を背負って言い訳無用でやらなければいけない。そうなるとマネジメントの面でもっと手を打つことができなかったという素朴な疑問がどうしても残ってしまいます。
北 特に印象的だったのは、PKを与えてしまった板倉滉選手のプレーでした。そこ以外でも板倉選手のところで何度もピンチを作られ、90分間で修正がなかなかできないまま最後の最後でPKを献上してしまいました。安藤さんがおっしゃるように、ピッチに出ている以上、板倉選手に責任はあります。ただ、彼を選んで送り出している森保一監督がなぜ板倉選手を代えなかったのか。あるいは他の手を打たなかったのかという点は疑問が残りますよね。
安藤 例えば1-0でリードしている状況や1-1の負けていない状況でディフェンスの選手を代えることは本当に難しいという前置きがあったとしても、板倉選手のコンディションはいつもの半分なんじゃないかというくらいでした。タレミ選手が出場停止で、代わりに入ったサマン・ゴッドス選手がトップ下からアズムン選手を(追い越して)湧き出てきましたが、それを捕まえきれていなかった。競り合いでも入れ替わることが多く、この状況で縦関係の2トップをCBの2人で見ている時点でリスクは明らかでした。
北 数的同数の状況で個人が上回られてしまっている場面があるとなると、1対1になってしまう。
安藤 あくまでも2対2でいけるのは、マッチアップで勝っている、同等で戦えているという前提条件があるからです。それが成り立っていない状態で90分間続けていくことはかなり厳しいです。僕は1点を取った段階で3バックに代えて板倉選手の負担を減らすか、CBを代える決断をどこでするのかと見ていました。でも、後半になっても代えない、時間が経っても代えなかった。なんでだろうと思っていたら、結局最後までそのままいってしまった。これは僕だけでなく、北さんもですし、みなさんがモヤモヤを抱いた最大の要因なのかなと思います。
北 森保監督は今大会を全員の力で戦うと明言していました。ローテーションをしたり、調子がいい選手がいれば入れ替えていくという話をしていました。CBには町田浩樹選手や谷口彰悟選手、あるいは伊藤洋輝選手といういろいろな選択肢があったなか、冨安健洋選手と板倉滉選手のコンビにこだわってしまったのかなと。正直、前半を終えて後半になるタイミングで(板倉選手を)交代させてもよかったほどの出来だったと思います。
安藤 ですのでCBを3枚にして、冨安選手を真ん中で余らせながら1対1のエラーをサポートすることも得策だったのかなと思います。
前にも伝播してしまった、後ろの不安定さ
北 前半戦は、振り返ると悪い内容ではなかったと思います。ボールポゼッションは75%対25%くらいの割合でかなり押し込んでいましたし、特に守田(英正)選手が素晴らしかったです。
安藤 守田選手はキレキレでしたね。特に遠藤選手と守田選手のバランスが非常によかった。それだけにこのリズムを維持するには、やはり後ろの部分に言及せざるを得なくなります。
北 背後を取られやすい状況になると、中盤より前の選手が思い切って前にいけなくなってしまうんですよね。特に守田選手のようにチーム全体のバランスが見える選手だと、もし自分が前にいってボールを取られてしまうと、カバーリングが足りなくなると危惧して、前半のような前へいく動き、間で受ける動きがどんどん見られなくなっていきました。それが、後半の押し込まれてしまった一つの要因なのかなと思うのですが。
安藤 それはすごく感じました。最初は遠藤航選手がアンカーで、守田選手と久保建英選手がインサイドハーフの4-1-4-1気味になっていて、攻撃になった時に守田選手が前に上がって、遠藤選手に後ろを任せるという状態でやっていました。先制点でも見られたように、上田選手のポストプレーから守田選手が受けてカットインして見事なシュートを決めていたように、上田綺世選手のサポートもできていて、かなり攻撃的にできていました。このままいけばイランは前に蹴るしかなくなり、そうなると日本の2CBが相手の2トップを抑え込めばなんてことのない状態でした。それが後ろの均衡が崩れていたことで、雑なプレーに扱われているはずのロングキックがイランの最も有効的な攻撃手段になってしまっていたんです。この時点で守田選手と遠藤選手の2枚で守り始め、後半はダブルボランチのようなかたちになっていきました。そうするとトップ下の久保選手とFWの上田選手にボールが入っていきにくくなり、上田選手がどんどん孤立していくという悪循環に陥ってしまいました。
北 上田選手もですし、久保選手も孤立してしまったことで、ロングボールが一本入っても2、3人に囲まれてボールを失い、また攻められるというサイクルになっていましたよね。
安藤 そのサイクルが打破できないまま(67分に)三笘薫選手が投入されたのですが、前線で上田選手が孤立しているのでサイドへ展開しても、相手は2枚を使ってドリブルを仕掛ける三笘選手の中を徹底して抑えてきました。最後まで問題を修正しきれずに悪循環のままいってしまい、負けるべくして負けてしまったのかなと感じます。
北 スタメン選びに関しても話したいのですが、3日前のバーレーン戦から先発が3人代わっていて、そのうちの2人は左サイドの選手でした。サイドバックを伊藤洋輝選手、1列前に前田大然選手を起用するという、ユニットで選手を代えた意図を安藤さんはどう感じますか?
安藤 それはコンディションだったのかなと思います。インドネシア戦→バーレーン戦のような流れで臨んだほうがよいという考えは森保監督のなかにもあったはずです。それが中2日という日程でどこを代えるかと考えた時に、左サイドが選択肢になったのかなと。左にはスピード系を使いたいという意図があり、今いる選手のなかでは前田選手が有効活用できるという狙いがあり、三笘選手を交代で出すところまでセットで考えていたはずです。三笘選手を出すために、相手を疲れさせてサイドで押し込む選択肢として起用されたと思います。ただ、板倉選手のコンディションが悪いとなった時、90分間のなかにプランBがあったのか、なかったのか。経験のある冨安選手と板倉選手をスタメンに選んだことに関しては激しく同意できますが、選んだ選手のコンディションがよくなかった時のB案、C案の準備ができていたのか。
北 ベンチには渡辺剛選手もいますし、CBはたくさん余っている状態でしたよね。
安藤 他のポジションと比較して見てもCBの選手は豊富にいたため、(板倉選手を起用し続けたことに)モヤモヤが残るなという感想です。
考え直さなければいけないアジアでの振る舞い
北 イランに負けたことで、アジアカップはベスト8で幕を閉じてしまいましたが大会前は「史上最強の日本代表」と呼ばれていました。1月のメンバー発表の際、山本昌邦ナショナルチームダイレクターからは「アジアを突き抜ける」という話がありました。アジアを突き抜けるということは、日本代表にとってアジアカップはある意味“通過点”というニュアンスが含まれていたと思います。安藤さんはこの臨み方について問題はなかったと感じますか?
安藤 たらればになってしまうというか、ベスト8で終わったという結果を受けての発言はどうしても後ろ向きになってしまう。でも、アジアは通過点ですけどアジアを突破しないと先がないというのが現実です。これからW杯予選も始まりますし、軽視していたわけではないと思いますが、やはり厳しい戦いになりました。いくら史上最強のメンバーが揃っていても、サッカーは11人でやるスポーツですし、もっと言えばベンチメンバーを含めた20何人で戦うスポーツです。総力戦であるということをあらためて学ばされたし、学ばなければいけない。我々(メディア)もちょっと浮かれすぎてしまったかもしれないです。
北 試合が終わった後、イランの選手が優勝したかのように喜んでいました。
安藤 記者席のメディアの人も、ガッツポーズならともかく、隣の席や周りの席からもイランの人たちが大量に集まってきてセレブレーションしているような感じでした。悔しかったですね……。
北 イランのピッチで戦っている選手だけじゃなく、サポーターや取材をしている記者も含めてこの日本戦に対してめちゃくちゃ強い思いで挑んできたということですよね。イランは決して格下でも挑戦者でもないわけで、アジアでは(FIFAランキング上)日本に次ぐチーム。だけど日本はどこかかわすというか、受け流すようなスタンスでした。日本のパスワークやコンビネーションといった組織での戦い方は悪くはないと思いますけど、もっと言えば球際などの個人の局面へのこだわりが特にアジアの国際大会は勝負を分ける。それは(1-2で敗れたグループステージ第2戦)イラク戦でもわかっていたはずです。でも、改善しきれなかったという悔いが残りますよね。
安藤 悔いしか残らないですね。こういう議論での難しさは、結果が出てからの発言になるので、手のひら返しになってしまうこと。でも、(敗戦から)学ばないといけないことは間違いないです。今回みたいにモヤモヤの残るような試合をW杯予選でやってはいけないし、W杯本番で自分たちが格下の立場になった時に力を発揮するだけでは、世界の上位は目指せない。選手だけでなく我々メディアも含めて(スタンスを)考えなければいけない負けだったと感じます。
北 仮に後半アディショナルタイムにPKを決められず、延長戦やPK戦で勝ってそのまま勝ち上がったとしたら、日本代表としてはこれがある種の成功体験になっていたと思います。でも、W杯を戦う時にこのままでよかったかと考えると、それは違ってくると思います。W杯でベスト16の壁を越えるための一つのキッカケにしてほしいですね。
安藤 目標はブレてはいけないと思います。アジアカップは準々決勝で終わりましたけど、本番はW杯予選、そして世界。試合後に南野(拓実)選手とも話したことなんですが、出場国の枠は広がったと言えど、安泰ではないしイラン戦のような試合は絶対にどこかであると思います。切り替えて、W杯に出るために戦って、W杯でベスト16の壁を破るために取り組んでいかないといけないですね。どの選手もこの敗戦から目を背けてはいないと思いますけど、悔しかったねで絶対に終わらせてはいけないです。
SHARE
RANKING
-
1
高校サッカー
「右足を磨きなさい」。父・藤本淳吾の薫陶を受け、長所を特出した武器に(藤本歩優/日大藤沢・2年)|「2世選手のリアル
-
2
高校サッカー
「父の話よりも自分の話をしたい」。“大好きなGK”で羽ばたくための創意工夫(佐藤翼/東京Vユース・3年)|2世選手のリアル
-
3
高校サッカー
「似ているだけで終わらせない」。憧れで理想の父・中村憲剛のその先へ(中村龍剛/日大藤沢・1年)|2世選手のリアル
-
4
海外サッカー
金子拓郎、高嶺朋樹、荻原拓也を連続で欧州へ。小島大叶が明かす、移籍市場の裏側|2世エージェント奮闘記
-
5
海外サッカー
弱冠20歳の敏腕エージェント!小島大叶の始まりは「苦しむ父を助けたい」|2世エージェント奮闘記